チャイニーズ・ドリームはどこに消えた?

トランプによる「アメリカディスカウント戦略」の皮肉な勝利。……勝利?



「よろしい、借りた金は返さない」…中国はなぜ各国からこんな扱いを受けるのか(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース
うーん、悲しい。

中国の影響力の「元手」は今年明らかになった。新型コロナウイルスで多く国の経済が冷え込んだ。ここに米国の反中戦線参加の圧力はますます大きくなる。中国が掲げた利点だけでは中国と一緒にやる理由が足りなくなった。むしろ中国に対し抱えていた不満が水面上に出てきた。英国とタンザニアの反中行動はこうした背景で出た。

「金で影響力は買えても、心は得られなかった」。

ブラウ研究員の一喝だ。彼女は「中国の国際地位急落はこれまで中国がグローバル商業ネットワークだけ構築し友情を育まなかったため」とみる。

「よろしい、借りた金は返さない」…中国はなぜ各国からこんな扱いを受けるのか(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース

まぁこうした「中国のソフトパワー不足」というのは、国際関係では割と定番のネタでもあったわけで。
アイケンベリーあるいはファリード・ザカリアなど、中国台頭について語られ始めた時からずっと言われていたお話ではありますよね。
それこそサイモン・テイに言わせれば、「アジアには、中国が支配する世界に住みたいと思う者は誰もいない。人々があこがれるチャイニーズ・ドリームなど存在しない」という程度には。


ただ一方で、上記リンク先のように失望されるような状況以前の「パクス・シニカ」「アジアにおける新国際秩序」と無邪気に期待されていた時期が確かにあったのも間違いない。
まさにそうした時期があったからこそ、今の失望があるわけだし。
それこそ2014年頃までは、上海協力機構やアジア相互協力信頼醸成措置会議、そしてAIIBの誕生など、中国主導の国際秩序に日本も乗り遅れるぞ! とまことしやかに叫ばれていたのにね。
中国の情報戦術にはまった? 安倍政権の外交オンチ (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
いやあ当時は、バスに乗り遅れるなと批判する人たち一杯居ましたよねえ。
やっぱAIIBのバスに乗り遅れたアベ政権は外交オンチ!!!1
僕はさすがに朝日新聞よりは、上記でも書いたアイケンベリーやサイモン・テイ先生の議論を信用していたので、……はえ~バスに乗り遅れちゃうのか~と生暖かく見守りながら日記を書いていましたけども、
「炭鉱のカナリア」としての香港 - maukitiの日記
香港の若者はチャイニーズドリームを夢見ない - maukitiの日記
ということでこの辺は以前から当日記でも何度か書いてきたお馴染みのネタでもあります。




ともあれ本題。
まぁ個人的に(上記朝日のようにポジショントークをしていたならともかく)ただ中国台頭について読み誤った人たちについては、浅学な僕も全く人のことは言えないし特にどうこう言うつもりはないんですが。
ただ、当時からはまったく予想外であった「トランプ大統領の誕生」こそが皮肉にもこの中国のソフトパワー構築の失敗の一助となったのではないか、とは思っているんですよね。
つまり、ファリード・ザカリアなどが指摘していたように、アメリカの覇権国としての尊大な態度によって、相対的に中国のカウンター・重石としての役割が期待されていた。
非対称である点こそが、彼らのソフトパワーの源泉でもあった。


ところがぎっちょん、その非対称性は、ただ中国の成長というだけでなく、皮肉にもトランプの暴走によるアメリカ側からのディスカウントでも縮まってしまっている2020年。
いやあまさかこんなことになるとは予想できなかったよねえ。
おそらく、今後もトランプが暴走すればするほどアメリカの影響力低下が進み、皮肉にも真っ当な――それはしばしば傲慢で横暴なアメリカと紙一重でもある――アメリカの待望論が国際社会で盛り上がるようになる。
まさにそんなアメリカだからこそ、本邦でも見られるように、対中国のポジションをもっとちゃんとやってくれと期待されてしまう2020年。


いやあ、アメリカの横暴に対抗するはずが、こんな構図が生まれてしまっているのってホント面白い展開だよねえ。
中国自身の失敗というだけでなく、トランプの『アメリカディスカウント』という高度な作戦()によって。
外務省騒然…「日本政府高官」が匿名で書いた「YA論文」のヤバい中身(吉崎 達彦) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)
YA論文が指摘していたように、やっぱトランプの暴走は一周回って日本に有利に働いていたんだなって。







ともあれ、その意味で『香港』というのは、まぁものすごく分かりやすいモデルケースでありショーケースなんですよね。それは(中国にとっての)民主主義のショーケースであるというよりは、むしろ(世界にとっての)中国の独裁政治のショーケースでもある。
香港への政治介入はそのとても目に見えて分かりやすい試金石なのです。中国に民主主義がどのように影響を与えるのか、あるいは中国「が」民主主義にどのように介入するのか。良くも悪くも香港こそが真っ先に影響を受けるだろうと。
身も蓋もなく言えば、香港は炭鉱のカナリアである。

「炭鉱のカナリア」としての香港 - maukitiの日記

これは6年前に書いた日記ですが、まぁさすがここまで見事に中国のソフトパワーの構築に失敗し、更にはアメリカ待望論が出るとは思わなかったなあ。
香港警察、民主派のメディア界大物を逮捕 - BBCニュース
香港警察 民主活動家の周庭氏を逮捕 香港複数のメディア | 香港 抗議活動 | NHKニュース
どっちみち、ついに、あえなく、カナリアは死んじゃったんですが。


台頭する中国が生み出さなければいけなかったチャイニーズ・ドリームとソフトパワーについて。
――はたして今のようにどんどん「中国式」に変化していく香港のような社会に住みたいと思う中国以外の人たちはどれだけいるだろうか?
その数字の増減こそ、中国のソフトパワーの現状でもある。


みなさんはいかがお考えでしょうか?