香港の若者はチャイニーズドリームを夢見ない

「先に豊かになれる者から豊かになれ」その後の世界。



なぜ香港の若者は「中国嫌い」になったか――香港民主化運動に見る中国の弱点 / 倉田徹 / 現代中国・香港政治 | SYNODOS -シノドス-
香港デモの背景について。これが今まで見た中でも一番解りやすいお話だなぁと。倉田徹先生か……めもめも。
結局「返還後」世代である香港の若者たちの心を、中国共産党政府は決定的につかみ損ねてきたと。まぁ当たり前の話ではありますが、そりゃ世界で最も景気の良いとされる中国富裕層がここ十年で香港に一斉に雪崩込んだらそうなりますよね。観光や買い物客が押し寄せる日本や韓国ですらそうなのだから、より身近な香港に大変化が起きないはずがない。かくして香港ではまさに金持ちの金持ちによる金持ちの為の政治への不満は高まることになった。
民主主義許せば低所得層が選挙支配、香港長官が発言 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
香港行政長官「選挙を民主化すれば貧困層に決定権」 - WSJ
この背景を見ると、やっぱり先日の香港長官の爆弾発言は、従来の香港政治におけるエスタブリッシュメントの考え方そのものですよね。彼の発言が意味しているのは「政治を金持ちが握っている」現状そのものであり「それを奪われてもいいのか」という懸念そのもの。ところが香港デモ参加者たちはむしろそれを打破する為にこそこうしている現実。両差のポジションの断絶として、ものすごく象徴的な発言だよなぁと。
かつて訒小平さんが述べた「先に豊かになれる者から豊かになれ」のその後の物語。おそらく中国本土でもあるだろう出遅れた『後の人たち』の不満を、しかし香港では躊躇いなく示してみせた。


「炭鉱のカナリア」としての香港 - maukitiの日記
この辺は以前も一度書いたお話で、つまり彼らには、それこそ中国に憧れ中国が主導する社会に憧れるような『チャイニーズドリーム』が存在しない、という現状そのものであります。

どんな国もその軍事力と経済力で全世界を支配することはできない。味方を増やせる魅力・説得力のない国の影響力はどうしても限られる。中国が、単なる「超大きな国」から、世界に影響力のある「超大国」へと脱皮するには、このソフト・パワーの弱点を克服する必要があるが、そのハードルは、香港行政長官選挙への民主派の出馬のハードルと同様に、非常に高いようにも見える。

なぜ香港の若者は「中国嫌い」になったか――香港民主化運動に見る中国の弱点 / 倉田徹 / 現代中国・香港政治 | SYNODOS -シノドス-

愉快なのは、最も近い(事実上の身内でもある)隣人である香港の地元住民ですら魅了できない彼らのやり方ですよね。




それこそ現状の成功者であるアメリカがパクス・アメリカーナな世界を実現したのって、別に単純な軍事力や経済力「だけ」ではないわけで。もちろんそうした身も蓋もないパワーが必要なのは大前提であります。その上で、アメリカが世界の唯一超大国を維持し続けられるのはその主導する国際秩序が「少なくともある程度までは」同盟国を尊重し、政策決定過程も「少なくともある程度までは」透明性が高い故に、参加する国々に安心を与えているからなわけです。実際、アメリカの意向を完全には無視できないものの、アメリカが気に食わない決定が成されることは国連をはじめとしてIMFやWHOなどなど珍しい話ではない。
――まぁもちろんアメリカの単独行動主義への批判はいつだって絶えないものではあります。しかし、それこそ旧東側や中国におけるアネクドートじゃありませんけど、それでもアメリカに不満を持ち批判し同意しない自由というのは確実に担保されている。
現代中国が直面する勢力均衡のような『アメリカ包囲網』ではなく、バンドワゴンな方をより選びやすいパクス・アメリカーナな国際秩序。
この点こそアメリカによる国際秩序が続く最大の理由の一つである、とアイケンベリー先生なんかは述べているわけで。アメリカ主導のこうした国際秩序に対抗しようとするよりも、むしろ参加者となった方が得であると。だからこそアメリカはその国際秩序の維持こそ外交政策の基礎におかねばならない。こうした点は『9・11』後の対テロ戦争後の反省でもあるのです。
ちなみに話は微妙にズレますけども、こうした構図こそ、クリントンさんやオバマさんのように所謂『内政優先』な米国大統領がむしろ国外からはウケが悪くなる理由の一つでもあるんですよね。つまり、アメリカ大統領が内向的であり連絡が少ないということは、同時にまた「アメリ外交政策が読めない=相談されずに勝手に決められる」という不安感と同義にもなってしまうから。この辺のお話は今度また書きたい。


まぁそのように考えると、アメリカの成功の裏側がそのまま中国の「新」国際秩序構築がなかなか上手くいかない理由そのものであるのでしょう。そこまで魅力のある選択肢を彼らは提示できない。
「パクス・シニカ」 中国による新たな国際秩序の創生は本当か WEDGE Infinity(ウェッジ)
パクス・シニカに至る最初の一歩であるはずの香港で躓くチャイニーズドリーム。
やっぱり香港デモの行方というのはそんな中国的国際秩序が実現するか否か、重要なマイルストーンとなるのでしょうね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?