「死刑の殺人抑止効果は不明」という風向きの変化

これで死刑廃止論者の人が喜んでしまうのも実は罠ですよね、なお話。


死刑の殺人抑止効果は不明、研究が不十分 米科学アカデミー 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
なるほどなるほど。ある意味で画期的というか、「不明」という結論ながら、これって実際一歩進んだ議論にはなったのかなぁと。
Deterrence and the Death Penalty | The National Academies Press
ちなみに元の論文は何処にあるんだろうかとググって見たら、ここらしいです。僕は未読なのでお暇な方は是非要約して優しく教えてください。

【4月22日 AFP】米科学アカデミー(National Academy of Sciences、NAS)は18日、現在までの死刑研究では、その殺人抑止力効果について肯定、否定、いずれの結論も導くことはできないとした報告書を発表した。

 報告書はNAS傘下の米国学術研究会議(National Research Council、NRC)が発行したもの。NRCは、死刑とその抑止効果を検証する委員会を主催している。

 委員を務める科学者らは、死刑に関する調査を過去35年間さかのぼって検証した。だが、死刑によって殺人発生率が減少、増加、または全く影響がなかったか、いずれの結論を導くにも情報が不十分だとの見解に達した。

死刑の殺人抑止効果は不明、研究が不十分 米科学アカデミー 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ともあれ、僕としてはやっぱりアイザック・アーリック先生の有名な「死刑は暴力犯罪を抑止する」という研究結果に概ね賛成する所ではあるので、あんまり納得できないお話ではありますけど、しかし当然こういう研究もあるんだろうとは理解できるお話ではあります。


しかしそれでも、まぁ伝統的に公的な学術会というのはリベラルな空気が多数派であるわけです。だからこそ70年代に上記研究結果を発表したアーリック先生は、それはまぁ学会でけしからんと非難されまくった挙句教授の座まで追われてしまったわけで。ちなみに彼は死刑廃止論者らしいですよ。
そんな死刑について「抑止効果があった」という議論すらもそもそも排除されてきた歴史を考えると、そこから後退して抑止効果を「不明」としたのはそれなりに真摯な態度ではあるのかなぁと思うんですよね。少なくとも賛否両論分かれる議論ではあるのだと。それこそ「死刑の抑止効果なんて幻想だ!」なんていう意識の高い人びと声と供に、死刑は廃止されてきたわけだから。
なので米国学術研究会議のこの研究結果は、廃止論者の追い風になったというよりはむしろ、維持容認の方がよりポジティブな影響があるんじゃないかと個人的には見えます。それが良いことなのか悪いことなのかは別として、風向きが少し変わってきたんじゃないでしょうか。

 また報告書は、殺人発生率の増減などが死刑政策の判断に影響を与えてはならないともしている。

死刑の殺人抑止効果は不明、研究が不十分 米科学アカデミー 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

それは一つの思想・ポジションとしては当然理解できますけど、でも、この研究でそこに言及してしまったら語るに落ちているじゃないですか、という感じではありますよね。