ゴッドブレスなアメリカ

またチート国家の面目躍如であって大変うらやましくてけしからんお話。


ジョセフ・ナイ教授が語る エネルギーが変える米国の力 WEDGE Infinity(ウェッジ)
シェールガス革命と米国復活のシナリオ WEDGE Infinity(ウェッジ)
ということで少し前から言われていたアメリカの『シェールガス革命』について、岡崎先生のところで評論があがってたので適当に。

7月11日付Project Syndicateで、Joseph S. Nyeハーバード大学教授(元米国防次官補)は、シェール・ガスの開発でアメリカのエネルギー需給は革命的に改善されるので、国際政治における米国の立場は従来よりもはるかに有利になる、と述べています。

 すなわち、1970年代初頭にニクソンはエネルギー自立を打ち出したが、石油危機とホメイニ革命を経たその十年後には、米国は石油の半分を輸入に依存し、その価格は15倍になっていた。ところが、その50年後の2023年には、米国が消費する石油の50%は米国産となり、米国は世界で最も安くエネルギーを得られるようになり、米国のエネルギー輸出が輸入を上回るようになる。その主な理由は、シェール・ガスであり、シェール・ガス産業は、2005-2010年に毎年45%成長し、アメリカのガス生産の4%から24%を占めるようになった。

 米国は今後一世紀以上、現在規模の生産を続けられる。中国では水不足、EUでは環境問題があって、シェール・ガス生産は上手く行かない。

ジョセフ・ナイ教授が語る エネルギーが変える米国の力 WEDGE Infinity(ウェッジ)

しかしまぁアメリカ衰退論が言われ定着しつつあったこうした時期にこんなお話が出る辺りアメリカすごい。ていうかただでさえ初期条件がチート過ぎて大抵の歴史シミュレーションだとアメリカ強杉で糞ゲー化必死なのに、更に上乗せしちゃいますか。エネルギー安全保障に悩む全ての国と、あとゲームデザイナーのみなさんに謝るべきです。


ともあれ、素人考えとしても、やっぱりこれはアメリカにとっての大きな転換点となるのだろうなぁと。ダニエル・ヤーギン先生が言うところの「チャーチルが英国海軍の燃料を石炭から石油に変えた時から始まった」とされるエネルギー安全保障の時代のまた一つ転換期へ。
実際、1973年の石油危機とアラブボイコット以来、歴代のアメリカ大統領たちにとって「外国の指導者の気まぐれから解放される」ことは悲願でもあったわけで。高すぎても安すぎてもよくないが「政治的に」利用されるのはもっと我慢できない。何故なら私たちはアメリカなのだから。
だからこそ、彼らはああして莫大なコストを支払ってまで中東に――ペルシャ湾(ついでに中南米も)でプレゼンスを確保し続けているんですよね。戦争までやってしまってはコストが掛かりすぎるけども、しかしそれが許容できるラインまでは突っ張る。だからそれはアメリカにとっては覇権的な試みであると同時に防衛的な志向でもあるのですけど、まぁしかし結果としてみればどちらも一緒ですよね。国家指導者であれば誰もが一度は夢見るものの、しかしその膨大なコストを考えると諦めざるを得ないことをほんとうに現実でやってしまう人たち。構図的には子供だらけの駄菓子屋で大人買いしている感じ。そりゃ憎まれますよね。
ちなみにこのお話で愉快なのは、その癖に、国内的事情からなぜかイスラエル擁護のポジションも取らざるを得なくなっていて、毎度毎度アメリカさんがアラブ諸国イスラエルの綱渡りをする羽目になっていて、端から見ていて大変そうだなぁと思わず生暖かく見守ってしまう所であります。かくしてアメリカさんが石油支配だのユダヤ支配だのと見事に矛盾するレッテルが貼られるという愉快な事態に。
その意味では、今回の展望は――勿論楽観的に進めばという前提ではありますけど――必然的に根本的な外交政策にも影響を与えるのでしょう。まぁ概ね私たち日本には良い方向に進みそうなので安心ではあります。



さて置き、アメリカから買うようになったら「余計に」アメリカの日本支配が強まるだけだ、と批判する方もいらっしゃるかもしれませんけども、ぶっちゃけそんなの中東産油国とそのシーレーンの安定について、私たち日本はほぼ完全にアメリカに外注している今だって似たようなものなんですよね。ていうかむしろ潜在的に軍事的なコストが上乗せされる分現状の方が損していると言えなくもないかもしれない。
ということで日本がこれからも寄生して――じゃなかった、甘い汁を吸わせて――でもなくて、共存共栄を続けていくために是非ともアメリカさんに頑張っていただきたいものです。がんばれシェールガス革命。