もうちょっとだけ石油の時代は続くんじゃよ

あるいは「終わりの始まり」的な風景。



米、石油・天然ガス生産量で世界一に 2013年見通し 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで当事者であるアメリカさんから公式発表されたそうで。

【10月5日 AFP】米エネルギー省エネルギー情報局(Energy Information Administration、EIA)は4日、米国は今年、石油・天然ガスの生産量でロシアとサウジアラビアを抜き、世界最大の生産国になる可能性があるとの見通しを明らかにした。

 米国は石油・天然ガスを合わせた生産量でロシアに匹敵していた一方、原油生産量では長期にわたって世界一の座を維持しているサウジアラビアには後れを取ってきた。しかし、水圧破砕(ハイドロリック・フラクチャリング、フラッキングとも)技術で頁岩(けつがん、シェール)層からの生産量が急増。2013年には原油生産量でサウジアラビアも上回り、天然ガス原油両方の生産量で世界最大になる可能性があるという。サウジアラビア天然ガス生産量は比較的少ない。

米、石油・天然ガス生産量で世界一に 2013年見通し 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

うちの日記でも散々ネタにしてきたのでニュースとしては今更感は否めませんが、しかしこうして改めて公式発表としてされるとやっぱりそれなりにインパクトのあるお話ではありますよね。アメリカが世界一の石油とガスの生産国に。個人的な興味の分野としては、第二次大戦以来続いてきたアメリ外交政策における『エネルギー戦略』の大転換となるだろうイベント、となったりするのかなぁと。
それでも尚、少なくとも企業や政治家といった人びとにとっては、サウジアラビアを初めとする中東地域の重要性はそこまで変化はないのでしょう。しかし問題はそこではないんですよね。それこそ最近のシリア介入を巡っての議論で露呈したように、まさにより足元にある一般の市民にとっての『中東の重要性』こそが今後のアメリ外交政策を揺るがしていくのだろうなぁと。これまでは良かったんですよ、アメリカ国民が世界で最も依存する石油を守る為、というまったく反論の余地のない大義名分があったから。
――しかしこれからはそうではない。今後はこれまでとは違って「何故そんな所にアメリカ軍がいかなければならないのか」という説明をつけなければなるなくなる。まぁそうしたことが、今後の世界にとってポジティブな影響を与えるのか、あるいはネガティブな影響を与えるのか、という点についてはやっぱりどちらも議論があったりするのでしょうね。僕なんかには当然さっぱり解りませんが。




さて置き、そんな地政学で安全保障なお話はこれまでも散々書いてきたので、また別の見方としての『シェール革命』について。
まぁ結局のところ「時間稼ぎ」でしかないというのはその通りなんですよね。何故こうして新しい技術を使って『非在来型』の開発時代が到来しているのかといえば、当然技術進歩という要素もあったりするんですが、それと同時にそりゃもう身も蓋もなく『従来型』の量が減ってきたからなわけですよね。
私たちは元々あった資源を使い尽くしつつあるからこそ、そんな二次的で非在来型な手法に手を出すようになっている。
だからこそ私たちは、周辺地域の環境へ少なくない問題があると解っていながら、そこに頼る以外にないのです。だってそうしなければ終わってしまうから。それは『革命』であると同時に『ラストリゾート』でもあるのです。ついに我々はここまで出来るようになった、そして、ついに我々はそこに手を出さざるを得ないところまで追い詰められてしまった。
石油時代の終わりの始まり。
この革命によってなんとかそれは延命の目算が立った。まぁもちろんそれは新たなエネルギー開発への猶予が生まれたという意味でもあって喜ばしいことではあるんですが、同時にまた将来必ず必要になるであろう新しいエネルギー開発へのモチベーションが失われる、という意味でもあるんですよね。だから今回の革命が本来そこに最も注力すべき超消費大国であるアメリカで盛り上がってるのは、なんだか皮肉なお話だよなぁと。おそらく元々薄かったそれが、更にその意欲を失いそうです。


環境保護な人たちがこの『シェール革命』に否定的なのは、その環境へのダメージ云々――でもそれを言ったら『従来型』だって十分に環境へのダメージはあるわけで――というだけでなく、そういう視点もあったりするのでしょう。革命によって確実に、その是非はともかくとして、次世代エネルギーへの道のりは遠くなった。だからこそ彼らは余計にその危険性を指摘せずにはいられない。
ただ、こうした事情があっても尚、個人的にはやっぱり『革命』は概ね喜ぶべきイベントであると言ってもいいのではないかと思います。
大気汚染コワイ - maukitiの日記
こちらも以前の日記で少し触れたお話ではあるんですが、結局のところ、『次世代エネルギー』の開発って現状では全く目処が立っていないわけで。もちろん価格に目を付けなければ利用可能な選択肢は幾つかあったりするでしょう。バイオだったり水素だったり電気だったり。しかし問題は今後膨大な数がやって来るであろう新興国の人たちであるわけで。彼らは当然の権利として、より安いエネルギーを求めることでしょう。そうした人びとを納得させられるだけの安価なエネルギーを生み出さなければどれだけ言っても絵に描いた餅でしかないのです。
やっぱりその意味では、こうしてシェール革命によって時間が稼げるようになったというのは、良かったのではないかと。


あともうちょっとだけ石油の時代は続くんじゃよ。果たして将来の解決策は見つかるのか、あるいはただ単に文字通り延命に過ぎないまま終わるのか。
がんばれ人類。