水戦争なう

あるいはその一歩手前にいる人びと。


読売新聞14日版の『地球を読む』ではポール・ケネディ先生の「水資源枯渇が安全保障上の最大の脅威となるだろう」というお話でした。

そう、この辺りで頭を切り替えた方がいい。理論だけの戦略家たち。中東などの地域問題にとらわれた指揮者、何らかの形の戦争を予言する人々の憶測から一線を画した方がいい。そして視点を変え、もっと穏やかで人間の役に立つ源泉から来る世界秩序への脅威に、目を向けたらどうだろう。
それは、なくなるまで、あるいは極端に量が減るまで、あって当たり前と思っている存在。つまり水である。真水を確保できなくなることこそ、人類の長期的な安全保障にとって最大の問題だと認めようではないか。水に比べれば、最初に挙げた政治的危機など、小さな問題に見える。

まぁいつものポール・ケネディ先生らしいといえばその通りであります。環境破壊や人口過剰や難民の問題が所謂『中枢国家(地域大国)』の不安定化を招き、それが周辺国を巻き込んでのより大きな地域全体への安全保障上の脅威として悪影響が広がることになるだろう、という先生イチオシのお話。その要因の一つとして水資源を数えるのは、おそらくかなり正しい指摘なのでしょう。淡水は今後の世界において重要な戦略資源となり、つまり「大河」をめぐる対立もより深まるだろう、と。


色々タイムリーだなーと思ったのは、ちょうど先週辺りに現状の尖閣などの東南シナ海での領土問題と絡めて「東南アジアの水戦争の危機」というお話がロシアの人たちから出ていたんですよね。
東南アジアに水戦争の危機はあるか: The Voice of Russia
レコードチャイナ:メコン川の水資源問題が中国と近隣諸国の衝突を招く―ロシアメ...
本文でも言及されてもいますが、この辺りはロシアさんはほぼ当事者でない分、それなりに客観的で真っ当な分析なのかなぁと。

メコンをめぐる緊張は中国の強大化を懸念する動きとも重なっている。特に南シナ海での領土問題にも影響を与えているのだ。その結果、中国における地域のバランサーとして米軍のプレゼンス拡大を歓迎する土壌が生まれている。長年にわたって米国とは友好的とはいえなかったベトナムでさえも、最近、カムラン湾への米海軍艦船の入港を認めている。APECサミットでベトナムの大統領は、メコン下流諸国が米国および日本との協力を強化することを指摘している。

東南アジアに水戦争の危機はあるか: The Voice of Russia

水資源の喪失はその地域社会にとって、今後より重要になるからこそ、協力関係ではなくむしろ対立関係を招いてしまうだろうという悲しい予測。やっぱりそれは直接に領土問題を抱えていないはずの、東南アジアの諸国にも色々影響を与えているのだと。今後はただの領土問題のそれよりもずっと水資源問題の方が重要になっていくかもしれない。彼らは中国のあの態度がメコン川流域の開発問題でも同様に発揮されることを恐れてしまう。
まぁ中国さんちなんてその意味では完全に自分のものであるはずの黄河さえも、よく言われるようにあんな有様*1なわけで。いわんやメコン川をや。下流地域にある周辺国に配慮があるのかというと、まぁ望み薄ですよね。
この辺はASEANの内部格差の問題と絡んで色々複雑なお話なんだろうなぁと。文字通り中国の『裏庭』だったそこに火がつきつつある状況について。そしてその本丸には世界で最も多くの人口を抱える水源である、あのチベットの問題があったりすると。いやぁ世界は複雑すぎてわけわかめでありますよね。(昨日と同じオチ)