海は広いな大きいな――つまり(法的な意味で)自由だな

そりゃ海賊も生まれちゃいます。


大量漁獲は「強奪行為」、国連特別報告者 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
少し前のニュースではありますが、こうした水産資源保護については21世紀の国際関係においてやはり重要なテーマの一つとなっていくのだろうなぁと。実際に国連食糧農業機関の推計だと「世界の水産資源の75%は、限度まで利用されるか、過剰利用されるか、枯渇状態にある*1」なんて言われているそうですし。


ちなみに私たち日本でもやっぱりそれは他人事ではないし、そしてそんな「管理の難しさ」という点では現実問題として苦労しているわけで。日本の領土はともかくとしても、そこに領海の大きさを加えた場合の広さは世界第六位なのは結構有名なお話ですよね。ならば一体その広大すぎる海をどうやって管理すればいいのか? 
特に昨今はずっと日本領海の南西の端っこの方で何やら侵入だのなんだのと騒がしいわけですけども、ぶっちゃけそれを『見張る』だけでも膨大なリソースが掛かっているのであります。それこそ他所の管区から引き抜いてそちらに回さなければ追いつかない程度には。

【11月5日 AFP】国連(UN)のオリビエ・デシューター(Olivier De Schutter)特別報告者(食料問題担当)は10月30日、海洋での大量漁獲について「強奪行為」であるとし、環境問題や地元利益への配慮が欠けていると強く批判した。

 デシューター氏は産業規模で行われている遠洋トロール漁により、小規模漁業に従事している人々やローカルコミュニティー、さらには持続可能な漁業も脅かされていると厳しい口調で指摘。「水産資源が枯渇した時、つけを払うことになるのは未来の世代だ」と述べた。

大量漁獲は「強奪行為」、国連特別報告者 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

いわんや経済的に貧しい他国をや。
そして、だからこそ、特に好漁場とされる西アフリカ沿岸諸国では二重の意味で――沢山獲れて監視が緩い――それはもう違法な漁業海賊行為の格好の狩場となってしまっている。リアル「ヒャッハー! 種籾をよこせー!」の世界。おかしいな世紀末はもう終わったはずなのに。
そのツケを最も直接的な払うことになる、地元の貧しい漁師たち。
勿論「誠実な」プレイヤーが相手であれば漁業協定や規制などで彼らを救うことはできるでしょう。しかし、やっぱり海は途方もなく広大である以上、そこに更に実効性のある監視体制を用意できなければ逆にそこは違法漁業の楽園となってしまう。もう既に、そうなってしまっている。悲しくて救えないお話であります。

「海洋強奪」について同氏は、小規模漁業従事者に打撃を与える漁業協定や密漁、保護海域への侵入、地元住民に帰属する水産資源を分断するといった形式で進行していると説明。農地が欧州や中東、中国の企業によって大規模に買収もしくはリースされる、いわゆる「土地強奪」と同様に深刻な脅威になり得るとした。

大量漁獲は「強奪行為」、国連特別報告者 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

まぁその意味では陸上のそれよりもずっと典型的な『共有地の悲劇』に陥りやすい構造ではあるのでしょう。それこそ大地を自由気ままに歩く自然動物たちを如何にして保護管理すればいいのか? という難問について人間はまぁそれなりに(政府管理や住民管理という形で所有権を付与することで)解決することができたわけであります。
ところが、それ以上に境界線が曖昧で誰でも(法さえ無視するほんのちょっとの覚悟さえあれば)ほぼ自由に侵入できる『海』ではそうした既存の解決策さえ通用しなかった。
――かくしてそれは見事に負のスパイラルに突入してしまっている。合法的なプレイヤーは不法なプレイヤーに対抗する為にルールギリギリを攻めようとするし、乱獲によって漁獲が減れば減るほど逆に従来の水揚げ量を取り戻そうとプレイヤーたちはより必死になり、漁獲が減ることでの価格高騰によってよりルールを無視することへのインセンティブが更に高まっていく。なんというスケールの大きな共有地の悲劇でしょう。


一体どうすればいいんでしょうね?
その活路を『養殖』に見出そうとするのはおそらく正しい選択肢ではあるのでしょうけども、しかしやっぱり環境汚染や稚魚の乱獲などの問題は大きいわけで。おそらくもうしばらくは両方を運用していかなければならない。
ということでこのお話は「技術の到達待ちオチ」というごく平凡な所に落ち着くのでしょう。いやぁ某電力のようにいきなり「すべて養殖に切り替えろ! それも今すぐにだ!」なんて言う人が居なくてほんと良かったですよね。
がんばれ未来の科学者たち。

*1:『ならず者の経済学』P225