たぶん200円じゃ人は動かない

密漁防止の究極の解決方法。


「遠洋漁業は経済的損失」、経済学者が禁止を提言 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
まぁなんというか、言っていることは解らなくはないし、おそらくそれなりに正しい計算ではあるのでしょうけども、そんな「経済的損失」を訴えるっていうのは特に昨今の地球温暖化環境保護のそれを見る限り、負けフラグにしか見えないのが悲しい所ではあります。

 米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーMcKinsey & Company)のマーティン・スタッチティー(Martin Stuchtey)氏によれば、政治的な主張を一切排除した方程式で計算したところ、遠洋漁業を禁止すると地球上の全人類1人当たり2ドル(約200円)のコスト負担が生じるが、同4ドル(約400円)の利益がもたらされるとの答えが導き出されたという。

「遠洋漁業は経済的損失」、経済学者が禁止を提言 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

しかし200円かー。多分その金額じゃ絶対に(私たち日本を含め多くの沿岸国で大抵強力なロビー・業界団体でもある)漁業関係者による抵抗運動を跳ね返すのは無理だろうなぁと生暖かい気持ちになってしまいますよね。おそらくそうした直接の漁業権を握る人たちから輸送・加工業者まで、まさに死活の掛かった彼ら業界関係者は全力で抵抗するだろうし。一方のそんな僅かな利益を受け取るはずの大多数の私たちは、200円ごときじゃ動かないのは確実であります。自由な政治活動の許された民主主義社会であればあるほど、少数派は多数派に勝利することは少なくない。
そしてまさに「それ故に」こうしてゆっくりと這い寄る危機に、私たちの現代社会は対策をとれない。

 スタッチティー氏の試算結果は、密漁防止のため世界レベルで公海での漁業を全面禁止するよう求める声を支持するものだ。同氏は近日中に試算の詳細を公表すると約束した。

「遠洋漁業は経済的損失」、経済学者が禁止を提言 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ちなみにこのお話で、なんで一足飛びに「全面禁止」というレベルになってしまうのかというと、そりゃもう身も蓋もなく、限定的な許可では『密漁』を防ぐことができないからですよね。
海は広いな大きいな――つまり(法的な意味で)自由だな - maukitiの日記
以前の日記でも書いたお話ではありますが、この「200円得するよ!」理論のキモは、おそらく、そうした密漁の監視活動を(全面禁止にすることで)限界まで小さくすることであるんじゃないかと思います。そもそもほとんどの国にとって公海どころか領海すら広すぎて、監視活動が追いつかないんですよ。
ぶっちゃけてしまえば、監視するだけのリソースが決定的に足りない。
皮肉なお話ではありますが、漁獲管理を徹底すればするほど密漁のインセンティブは大きくなってしまい、必然的に海域監視の為のコストは膨大なモノになっていく。もちろんそれを買わなければいいということもできるんですけども、自国だけの問題だったらそれも可能だったかもしれない、しかしこのグローバルな世界において、海外で合法的に水揚げされたされたと謳われた商品を絶対に買わないことなんて不可能ですよね。こうした理由から、むしろよりグローバル化が進んだ冷戦以後の世界=ソ連崩壊によってこそ、こうした密漁ビジネスは大躍進を遂げてしまったのでした。
ともあれ、だから今回のお話の「全面禁止するしかない」というのはそれなりに論理としては理解できるお話ではあるのです。違法性のある商品の流通の禁止を考えようとすれば、最終的にはそこに行き着くしかない。全面禁止にしてしまえば遠洋漁業やっている船=違法操業であると断定するのが容易になり、取り締まりのコストもずっと安くなるはずだから。


このお話で悲しいのは、そんだけがんばって、(コスト削減の)究極の手段である全面禁止をやっても、200円しか利益をもたらさないという点なのでしょうね。