ヤセル・アラファトを抹殺したブッシュ前大統領

もちろん政治的な意味で。



パレスチナを「オブザーバー国家」に 賛成多数で決議採択 国連総会 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで、とりあえずは国連でも「国家扱い」されたそうで。おめでとうおめでとう。意味があるかどうかは別として、ある種の大衆運動的な盛り上がりの材料にはなっていますよね。
そしてまぁ毎度のことではあるんですが、この構図で一番困ることになるのがいつものアメリカさんですよね。ポジション的に反対を表明せざるをえず、中国やロシアに「でたwwwアメリカのダブルスタンダードwww」という揶揄の材料を与えてしまうことになってしまう。更に今回は、これまでのオバマさんが何となくポジティブに語っていた「中東和平に努力する」という建前が、見事に建前にすぎなかった事が露呈してしまっているというオマケまで。
イスラエルでも親アラブでもなく、「ぶっちゃけ中東はわりとどうでもいい」というオバマ政権のほぼ一貫した本音。でも仕方ないよね。それどころじゃないんだから。こんな時それどころじゃなくなっている側の私たち日本としてはどういう顔をしたらいいのか複雑な気持ちに。


毒殺疑惑で捜査、アラファト氏遺体からサンプル採取 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
そういえばそんな大衆的な盛り上がりに関連して、アラファトさんの暗殺疑惑の捜査までやっているそうで。まさか本当に墓を暴く所までやるなんて思いませんでした。特にあの夫人が中心らしいし。しかしこの辺は事象として根っこは同じ所にあったりするのかなぁと。意味があるかは別として、しかし人びとの耳目を集めることができるのは間違いない。
実際、ヤセル・アラファトさんと言えば、今尚パレスチナでは支持者の多い民族の英雄であるわけですし。そりゃあ盛り上がります。
――しかし、ではほんとうにアメリカやイスラエルが彼を暗殺したのかというと、やっぱりそれは陰謀論でしかないよなぁとも思うわけで。だってそもそもアラファトさんを「政治的に抹殺」したのがアメリカだったんだから、わざわざ直接に殺す必要さえなかったわけで。

「(イスラエルパレスチナ間の)和平達成には、これまでとは違う、新しい指導者が必要である」*1

2002年6月のブッシュさんのこの演説によって、アラファトさんの政治的影響力は無くなってしまったのです。
つまり、ブッシュさんは第二次インティファーダの責任をアラファトさんにとらせる形で幕引きを図り、その成果でもってイスラエルを『中東和平ロードマップ』の交渉の席に着かせようとしたのです。アラファトさんはその流れに抵抗しましたが、最終的にその権力の座は今のアッバスさんへと継がれることになったのです。
こうした構図の中では、正直アメリカやイスラエルさんちが積極的に殺す必要はなかったよなぁと。ていうかその時期はずっとアラファトさんイスラエル軍に包囲軟禁されていたので、殺してしまっては本末転倒であります。
むしろ可能性としては、上記アラファトさん退任に至るまでの権力闘争の過程、もしくはそんな風に権力が奪われた彼を「殉死した英雄」として利用したい人たち、の方が高いのではないかなぁと素人ながらに思います。これまでもそうした可能性は一部囁かれてきましたけども、むしろそっちの方が最悪のシナリオとしてパンドラの箱を開けてしまうんじゃないかと。


ともあれ、まぁ色々と嫌われまくりな前米国大統領のブッシュさんではありますが、少なくとも中東和平に関してはオバマさんよりもずっと意欲的であったんですよね。だってそれこそが中東での反米感情に根付いていると気付いていたから。
しかしそんな彼の意欲的な中東和平へのロードマップは、諸々の事情――イラク戦後復興の失敗・議会の反発・イスラエルロビーの妨害・イスラエル政府の暴走等々――によって最終的に頓挫してしまうのでした。そしてその失敗から過激派であるハマスが登場し、再び泥沼へと突入していき現在に至ると。結果が出なかったどころか、悲しいまでに悪影響ばかりなので正直正当化もできませんが、しかしそれでも当時は少なからず期待されてもいたんですよね。


その意味で、現状のオバマさんのやり方「中東はわりとどうでもいい」というのは前任者の失敗から正しく学んでもいるとも言えるのかもしれません。
実際ブッシュさんのように直接関与しようとした所で、それは無駄な努力に終わる事がものすごく高い。だったらはじめからこちらからは手を出さずに流れを見守るだけにしよう、というのは米国大統領としての政権運営の方針としては、おそらく間違ってはいないのでしょう。かくして最初のような国連などでの「パレスチナをめぐる賛否」における日常風景である『アメリカの孤立』が繰り返されることになってしまう。


上記ブッシュさんのロードマップの予定では2005年までにはパレスチナ国家が生まれているはずだったのにね。
ところが2012年の今、ご覧の有り様であります。いやぁ一体何が悪かったんでしょうね?

*1:イスラエル・ロビーⅡ』P33