世界を変革する(かもしれない)一大イベント

理想やイデオロギーのような形而上の何かではなく、身も蓋もない形而下のパワーによって動く世界。


米国はエネルギーの純輸出国に、中東との地政学的関係変化=大統領| ワールド| Reuters
ということで70年近く続いた『世界の中心』が移動するかもしれないお話。現在の地政学の根本的な変化への展望について。

[ワシントン 19日 ロイター] オバマ米大統領は、19日付タイム誌とのインタビューで、米国は原油および天然ガス生産の急増によりエネルギーの純輸出国となり、いずれ中東との地政学的関係が変化する可能性がある、との見方を示した。

オバマ大統領は「米国は新たな技術や天然ガスおよび原油に関する政策により、エネルギーの純輸出国となるだろう。その結果、われわれは望ましい中東や世界のあり方について、もっと自由にモノを言えるようになる」と述べた。

米国はエネルギーの純輸出国に、中東との地政学的関係変化=大統領| ワールド| Reuters

アメリカの『シェール革命』がもし楽観的なシナリオのまま進めばこうしたことも実際ありえるのかもしれない、とは思わせる夢のあるお話ではあります。これまでもずっと――特に冷戦以降は中東におけるアメリカのプレゼンスについてはしばしば批判的な論調で議論されてきたりしましたけど、結局そうした構造を根本的に変えそうなのは別に理想主義やイデオロギーの変化ではなく、こうしたエネルギー戦略の変化こそがそれをもたらすことになりそうだと。
とてもリアリズムな世界ですよね。


――で、これが本当にそうした「中東との地政学的関係変化」があるのかというと、一体その辺はどうなんでしょうね?
そもそも論でいけば、アメリカ自身のそれだけではなく、私たち日本をはじめとする(旧)西側同盟諸国のエネルギー安全保障の『心臓』たるペルシャ湾岸に絶対的なプレゼンスを確立していたからこそ、アメリカという国はその盟主という座にあったのでした。多分に「鶏と卵」なお話ではありますけども、中東を支配しているからこそ盟主であり、盟主だからこそ中東を支配していた。
この構図は現在も基本的には変わっていないわけです。特にペルシャ湾岸での世界全体の石油供給量に占める割合は、それこそ世界各地の油田開発によって低下し現在ではおよそ20%ほどとされています。しかし、その万が一の際に必要な『余剰生産力』という点では今も尚世界でも最も重要な地域であることは間違いないのです。つまり、戦争や災害など不測の事態によってその供給が滞った場合、その不足分を短期的にカバーできるだけの余力を持っているのは「そこ」にしかない。むしろその意味では重要度としては上昇さえしているかもしれない。
だからこそ冷戦構造が崩壊した後も尚、やはりそうしたペルシャ湾岸の支配権を握っている事こそが、世界に冠たる超大国の証でもあるのです。
ペルシャ湾――ホルムズ海峡を支配することは「世界全体の石油供給の20%と、『予備』のほぼ全て」をその手に握る事になる。ちなみに我らが日本は中東依存がいきすぎてその9割弱を握られてしまうことになるのでマジ頭が上がらないことになってしまいます。事実今でも上がってませんね。
結局のところ、こうした構造が根本から変えることこそが、やはりアメリカの最重要の国家戦略の一つも変えることになるのでしょう。果たして『シェール革命』は現代も尚続く中東を中心としたこの供給システムそのものを変化させる事ができるのか? そして「ペルシャ湾岸の覇権国家誕生の阻止」というアメリカの大戦略が書き換えられることはあるのか?
もしそれが成されることになれば、世界的な地政学上の一大イベントとなるのはおそらく間違いないでしょう。今後10年くらいに渡って乞うご期待であります。


そういえば話は少しズレますけども、現在のOPEC支配の礎を築いたカダフィさんの死と、そしてその体制の下に形成された一部地域が世界の中心となった時代の終焉(するかもしれない)というお話が、こうして同時期に出るのはとても皮肉で面白いお話だなぁと。