『大英帝国の崩壊』という解りやすいイベントを目の当たりにしなかったイギリスの幸運――あるいは不運

栄光ある孤立政策」から「栄光なき孤立政策」へ。



先日の日記60年以上経ってもまだ答えが見つからないイギリス - maukitiの日記の補足的なお話。
有権者の40%がEU離脱支持…英紙世論調査 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ということで先日も少し書いたイギリスさんちの「欧州連合脱退を問う国民投票」についての世論調査が出たそうで。賛成40%・反対37%で賛成が反対を上回っているらしいです。
しかし公約といっても「2017年までに」とエクスキューズされているように、イギリス政府としてはやっぱり時間稼ぎをしつつ、どうにか持ち直してくれればと祈っているのでしょう。ほんともう『欧州連合』という試みが、大成功か、あるいは大失敗だったら話は簡単だったのにね。しかしやっぱり現実は物語のように解りやすい話などあるはずもなくて、結果として欧州連合は大成功でもなく、大失敗というわけでもなくどうにかこうにか続いている。
ただまぁやる気がなかったとはいえ欧州連合におけるイギリスは独仏と並ぶ事実上の第三極でもあったわけで。正直イギリスの脱退が現実となってしまうと、ギリシャなどの脱退とは比べ物にならないほどの政治的インパクトを与えることになるのは間違いない。それが良い変化のか悪い変化のかは解りませんけども。




ともあれ、話を戻してイギリスさんちのお話。
いやぁ元々多いとは思ってましたけど、まさか反対よりも多いとは驚きであります。ただやっぱり理解できなくはないんですよね。先日の日記でも書いたように、だってそれは最早イギリスのアイデンティティーそのものでもあるんだから。
「イギリスの天命は海にある」
ヘンリー八世及びエリザベス一世の時代から、それこそ500年近く続くイギリスの伝統的価値観。栄光ある孤立政策。現在においては既に時代遅れとなった過去の成功戦略ではありますが、しかし、それでも一度は大成功したことは間違いないのです。
ただ、その成功体験はともかくとして、しかしその終焉の仕方こそが問題だったんじゃないかと。
つまり、かつての大英帝国はその終焉があまりにも綺麗に――自然消滅といってもいい形で終わってしまったからこそ、彼らはその考え方を決定的に捨て去るタイミングを逸してしまった。だからこそ現代でも尚「イギリスはヨーロッパから一歩引いた所に居るべきだ」という価値観が根強いんじゃないでしょうか。
それこそフランスやドイツを筆頭にしたヨーロッパ諸国、あるいは私たち日本でさえも、かつてあった伝統的価値観はほぼ完全に捨て去っているわけです。だってその考え方の終焉があまりにも悲劇的だったから。独仏の国境線は若者たちの死体で「二度も」埋まったし、そして私たちも都市が完全に焼け野原になってしまうことを知ってしまった。そりゃいくら伝統的な考え方でも改めますよね。
一方でイギリスさんちは、もちろんそれなりに悲しい物語ではあったものの、しかし歴史として見れば稀に見る形で穏やかにその大帝国の幕を閉じたわけです。「痛い目に会わなければ人は学習しない」というのはまぁ昨今の体罰云々とあわせて中々頷きにくい論理ではありますが、しかしまったく間違ってもいないわけで。
――結果として、その幸運こそが、現在までその価値観を温存させる要因となってしまった。
彼らのその古臭さを笑うことは出来ますが、しかしやそんな幸運な彼らだからこそ、不運にも国民投票の一つや二つやらねばならないのでしょう。




ただまぁそんなイギリスさんちを端から見ていて思うのは、かつては(常識と思われていた)大陸関与を捨てて「海に生きる」ことを見出したわけですけど、じゃあ今回は(同じく常識と思われている)大陸統合の波に背中を向けるのはいいとしても、じゃあ一体他に何がやりようあるんでしょうかね?
英のEU離脱と日英ブロック: Meine Sache 〜マイネ・ザッヘ〜
上記では日英同盟復活なんてとてもユニークなお話がされていて面白かったんですが、まぁそれはそれとして、何か代案もない癖にただ欧州の統合から目を背けてもなぁ、と他人事ながら考えてしまいます。
かつては「栄光ある孤立政策」でしたけど、何の対案もナシにそれじゃ「栄光なき孤立政策」でしかありませんよね。


そうは言いつつも、私たちも冷戦構造以後の国際関係では似たような所に立っているので、あんまり彼らのことを笑えませんけども。