中国工場偽造問題の根本的構図

「政府=最低限のルール」の不在がもたらす功罪。


米マクドナルドCEO、中国企業の食肉安全問題で「欺かれた」| Reuters
http://www.mcdonalds.co.jp/news/140722.html
ということで相も変わらず続く、中国さんちの偽装問題であります。
マックチキンナゲットに使われたカビた肉の色ヤバイだろ : ガハろぐNewsヽ(・ω・)/ズコー
ほとんどグロ画像。リアルソイレントグリーン。最近はさっぱり行かなくなったものの、僕もふつうの現代人として当然口にしたこともあるマックナゲットに入ってたいたかと思うと(オエーAA略 でも人間って案外丈夫だよね。
安かろう悪かろうな粗悪品ならともかくとして、しかし口に入るモノなどの偽装をされると、それはまぁ大ダメージではありますよね。日本でも話題になったゴミ入り餃子や段ボール肉まんあるいは鉛入り歯磨き粉等々、まぁ何回同じ事を繰り返せば気が済むんだ成長しないな、と言うと身も蓋もありませんけど。



中国の工場で見られる『偽装』問題について。もちろんその歴史は古くて産業革命以来常にあったわけでもありますけれど、しかし、それでも中国の規模は正しく例外的でもあるわけで。

報道された内容が事実であれば、マクドナルドとしては一切受け入れられるものではありません。マクドナルドでは中国メディアの報道を確認後、「上海福喜食品有限公司」への発注を中止するとともに、直ちに「上海福喜食品有限公司」に事実確認の調査を行っております。

マクドナルドは、お客様に高い「食の安全性」と「品質基準」を満たした商品をご提供することをお約束しております。商品の調達過程の管理におきましては、全ての過程において安全性を確保するとともに、全ての取引先に弊社商品が安全であるために、弊社の厳格な基準を満たすよう要請しております。マクドナルドは、原材料について生産地、加工、物流、店舗内での調理を経てお客様に商品をご提供するまで大変厳しい管理基準を設けています。

http://www.mcdonalds.co.jp/news/140722.html

 サムスンは7月初め、年に1度発行する「サステナビリティーリポート」で、200社以上ある中国のサプライヤーの大半で広範な違法行為があることを公表した。違法行為の中には、安全教育の欠如や、サムスンが以前、2012年末までにやめると宣言していた法定制限を超す長時間労働も含まれていた。

 だが、サムスンは、名前を明らかにしていない外部機関が全サプライヤーを対象に行った大規模な監査では、児童労働の証拠は見つからなかったと述べている。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41222

少し前にサムスンの児童労働なんかも話題になっていましたけども、まぁ確かに上記マクドナルドにしろケンタッキーにしろ、あるいはサムスンにしろ、少なくとも一面においては、労働環境の偽装にしろ原料偽造にしろ、彼ら企業の側が『被害者』だということは確かにできるんですよね。
実際、今回の件のように彼らだってこうした中国工場での偽装問題が明らかになればダメージを受けるのは確実なわけで。だからそうした企業たちも「出来るだけ」そうした不祥事が起きないように定期的に工場監査をしたりして、リスクを減らそうと努力している。
――ただ、悲しいことに、そうした取り組みはまったく実を結ばなかったというだけ。
どれだけ監査をやっても、彼らは現地工場にその裏を掛かれていた。搾取的でない労働基準を守らせようとしては嘘をつかれ、彼らが預かり知らぬところで原材料の偽造工作をされた。かくして、何度痛い目にあってもその後に私たち消費者が忘れる度に、中国工場での偽装問題は繰り返される。


ほんとうに皮肉なお話ではありますが、こうした中国工場での偽装問題って、ニュースとなり私たち消費者の関心として大きく取り上げられるようになって、中国に進出した企業たちが真剣に現地工場の監査に取り組むようになった2000年以降この問題は更に根が深くなってしまったんですよね。
――つまり消費者圧力によって「善に目覚めた」企業たちが中国工場の良好な工場環境を求めれば求めるほど、彼らには偽装するインセンティブが強くなった。
出来る限り安い商品と、出来る限り安全な工場。
こんな相反し矛盾する要求をされたら、そりゃ偽造する以外にありませんよね。どちらか一方だけ、前者だけだったならまだマシだったんですよ。その意味では、中国の劣悪な工場環境なんてまるで興味のなかった時代の方がまだマシだったかもしれない。ところが「善き消費者」としての意識に目覚めたリベラルな私たちは、後者までも同時に要求するようになってしまった。
善き労働環境であれ、でも安くあれ。
そして生まれた現在の状況といえば、現地工場主に裏を掛かれる「被害者たる」企業たちの不祥事であり、ひたすら低コストを求める「加害者たる」企業たちの自業自得であり、そして勝ち残るのはルールを守る誠実な工場ではなく最も「偽造の上手い」工場たちだった。救えないお話であります。
ならば「正直者が馬鹿を見ない社会」ってなに? - maukitiの日記
大分昔の日記で書いたお話ではありますが、周囲から誠実であれという要求が強ければ強いほど、逆に不誠実であるということのメリットは大きくなるのです。だってそれは一人だけルールを破ることで得られる利得は相対的に増大していくから。故にこうした「不誠実者が得をする」負の連鎖を抜け出すには、強制力をもったルールの策定こそが重要なのです。そしてそれは一般に政府による法規制――労働基準や安全基準や衛生基準など――によってこそ、達成される。


この中国の偽造工作問題の根幹は、そうした本来なら政府がやるはずのことを、不完全な代替として多国籍企業がそうした取り組みを行わなければいけないことで矛盾=不誠実さこそが勝利する状況=監査を誤魔化すインセンティブが生まれてしまう点にあるのです。
そもそも、私たち日本でも当然そうであるように、児童労働や上記緑色のお肉のように最低限の衛生基準を守らせなければいけないのは中国政府のはずなのにね。
――でも、中国ではそんな法規制は基準という意味でも運用面でもまったく未発達である。それは単純に市民の側が守る気がないという意味でもあるし、そもそも役人の側もそれを守らせる気がないし、権力を握っている中国共産党も経済成長最優先の状況ではこの構図を本気で変化させようというつもりもない。
ちなみに今も尚『中国工場』というのが世界市場で圧倒的な競争力を持っている要因の一つに、こうした中国の法規制の未発達具合では『偽造』することが容易であり優位に直結することが、同時にまた他国の工場に対しての優位性に繋がっている点があるんですよね*1
単純にコストで比較しても、他国では到底不可能な偽造が容易な無法地帯である中国工場と対抗されては、いくら人件費が安かろうと勝負にならない。
この視点で見ると、中国政府が現状を放置するインセンティブもやっぱりあるのでした。


中国工場の偽造問題について。もちろんその責任の少なくとも半分は強欲な企業及び「安さ」を求める私たち消費者にあるものの、しかし根本的には中国政府と行政の問題なのだろうなぁと思います。その意味では、たかだか中国進出企業が頑張った所でこの問題が今後改善する見込みがあるのか、と聞かれるとやっぱり悲観的になってしまうよなぁと。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:もちろんほかにも優位性はあって、人件費が上がり続けても尚競争力がある理由の大きな一つは、一般にその規模集約性とインフラ整備の利点があげられる。