オバマ大統領が民主党へ遺す負の遺産

歴代民主党政権が抱える宿題がまた次の世代へ。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42399
名実ともに外交軽視の姿勢が透けて見えるオバマさん、という批判的なお話。まぁこれまでの惨状を見る限り解らなくはありませんよね。外交がこんな有様だから興味が最早ないのか、それとも興味がないからこんな有様なのか。


でもまぁクリントンさんのように、任期末期になってから遮二無二に外交政策での『大統領の遺産』を求めようとするよりはマシかもしれない。実際「不適切な関係」を筆頭にして国内的にヘマを打ちまくることでクリントンさんは議会の亀裂を悪化させ、結果的に内政政策による得点を挙げることはできなかったからこそ彼はああして中東和平などで必死に外交でこそ成果を出そうとしたわけで。
一方でオバマさんは少なくともオバマケア――ちなみにもしクリントンさんがもう少し上手くやってれば彼の時代にそうした医療保険改革が実現していた可能性はそれなりにあった――という実績が既にあるわけで。故に外交での「大統領の遺産」を目指す必要は最早ない。
こうした構図を考えれば、やっぱり「これまで以上に」現地政権とアメリカ政府との最初の橋渡しとなるはずの『米国大使』に素人を選びまくるというのは、これはこれで明確な方針の下に決められた決定なのだろうなぁと思います。
外交問題は既に消化試合だ、という決意。


まぁどう見てもシリアにイラクウクライナにと、前回の子ブッシュさんのイラク戦後統治問題ばりに『(前大統領の)負の遺産』が次の米国大統領に遺されることは確実なわけですけど。


ただやっぱりオバマさんにとってはあとはもう逃げ切るだけであっても、次の米国大統領にとって――もっと言えば次の民主党出身の大統領にとっては、そうではない。

 第1に、こうした政治任用は米国外交団の士気を一段と落とす。米国務省は野心的な大卒者を引き付けるのが困難になっている。大卒者は国務省には自分たちのキャリアパスを阻止するガラスの天井があることを知っているからだ。

 もし恵まれた大将の職が1度も軍服を着たことのない素人に与えられたとしたら、ウエストポイント(米国陸軍士官学校)が才能ある軍将校を採用するのがどれほど難しくなるか想像してみるといい。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42399

基本的には国務省の若手エリートの外交官たちにとって、そうした大使ポストというのは踏み台であり経験を積む機会でもあるわけですよ。正しく経験を積むことが出来れば「現地通」という肩書を得ることができて、更なるポストが望めるようになる。その意味で言えば、まぁ別に日本やイギリスのように、アメリカにとって「成熟」あるいは「枯れた」関係であれば多少大使が経験不足であろうと問題ない。まぁ日本は日本でかなり専門家が消えてヤバいと言われて久しいわけですけど。
ともあれ、でも上記リンク先で指摘されるようにハンガリーなんかはまったくそうではないわけですよね。それこそ現在のヨーロッパ中で最も重要な政治問題の一つである「極右台頭」の中でも、更に深刻なのがハンガリーだと言われているわけですよ。ただ議会の一部が占められているどころか、ハンガリーは一歩進んで政権そのものがその傾向を持つ程だとヨーロッパ内ではかなり心配されている。
こうした背景を見ればまさに欧州統合を信じるFTさんちのような人たちが、駐ハンガリー大使の任命を見て、上記のような外交の不安――将来の民主党の外交人材の不足を心配するのも無理はありませんよね。


それこそアメリカ民主党が主導し見事に失敗したベトナム戦争後の時代から続く、米国民主党の外交分野の人材不足について。それはようやく政権を取ったカーター政権での失敗ではむしろ悪化(イラン人質事件での失敗は、軍関係と外交関係の共和党への人材流出の契機となった)したし、その後再び続いたレーガン・父ブッシュによる12年の共和党政権での空白期間で更にまた人材の空白化は進んだ。
故にクリントン政権でもこの外交分野の知識不足の問題はあって、彼らは死ぬほど苦労しながらもどうにかこうにか乗り切ることで次の民主党政権への人材継承の道筋を付けた――あのホルブルックさん*1なんかはまさにクリントン政権時代のユーゴ危機を通じて台頭した民主党派の外交官だった――わけです。しかし、その後を受け継ぐべきオバマさんはそんな党の都合にはまったく興味を見せない、冷酷な彼は自分のことしか考えていない、ように党内からすらも見えていることがまた不信を買っているのでした。
ヘーゲル米国防長官が辞任、イスラム国対応めぐり事実上の更迭 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ちなみにそんな『外交』だけでなく、最近も混乱していた国防総省長官人事を見ればわかるように、『軍』に元々あった民主党への不信も、オバマ政権になってからより高まっているんですよね。外交を台無しにしかねないと批判されていますけど、むしろこっちの軍上層部と民主党の関係の方が多分もっとひどい。次の民主党の大統領候補になりそうなヒラリーさんは、国務省ではそれなりに成果を挙げたおかげでそれなりに楽観できても、しかしこちらの問題ではとっても苦労しそうです。


上記でも触れたように、シリアやイラクウクライナの問題はどう見てもオバマ政権から次の政権へと遺された『負の遺産』となるでしょう。
――それに加えて、より長期的な民主党政権への『負の遺産』としてはこうしたオバマ政権でも解決どころかむしろ悪化させたとすら言える外交と軍事分野の人材とノウハウの空白化は、アメリカ民主党にとって重い負の遺産となってしまうのではないかなぁと。




まぁこうした党内「人材不足」の問題はアメリカだけでなく、ご存知のように日本のそれも同じような問題を抱えていて、まさかの民主党繋がりという愉快な構図でくすっとしてしまうお話ではあるんですよね。知識不足故に官僚の言いなりになる日本と、知識不足故に混乱し機能不全に陥るアメリカという政治システムの違いは、一体どちらがマシかと言われると困ってしまいますけど。


がんばれ日米民主党