今なお続くアメリカの根深いPTSD

あるいは前任者よりもひどい無能扱いだけは絶対に避けたい現任者のジレンマ。


シリア難民に対するオバマ大統領の借り 立派な外交的レガシーの脚注では済まないシリア問題 | JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで「シリアはオバマ政権の負のレガシーになるだろう」という身も蓋もないお話であります。まぁでも概ね正解ではあるかなぁと。毎度のことながらオバマさんは任期末期に至り外交レガシ―を打ち立てようと必死ではありますが、しかし、悲しいことにシリアでの振る舞いはそれらをどれも上回るほどの『遺産』となりそう。子ブッシュイラクを壊し、オバマはシリアを壊した。

オバマ氏の人道主義的な本能が強いことは明白だ。だが、シリアについては尻込みしている。ビル・クリントン氏は大統領としての後悔について問われるたびに、1994年のルワンダでの大虐殺を食い止められなかったことを挙げる。方針を変えない限り、オバマ氏もシリアが後々たたることになるだろう。

シリア難民に対するオバマ大統領の借り 立派な外交的レガシーの脚注では済まないシリア問題 | JBpress(日本ビジネスプレス)

ただまぁFTさんは過ちの告発だと批判的ですけども、シリア政策にしろ難民受け入れにしろ、オバマさんがこうして解りやすく「尻込み」するのも理解できるお話ではあるんですよね。
――だってそれで手痛い失敗をした記憶がまだ新しいじゃないですか。
イラクにしろ『9・11』にしろ、あの恐怖の記憶を拭い去るにはまだ時間が足りない、と擁護するのは難しくない。『9・11』でも何故実行犯を入国させ見逃したのかという犯人捜しはずっと続いていたし、またイラクでの介入失敗も何故あんなバカなことをして泥沼に陥ったのかという批判は国内外問わず今も続いている。アメリカにそうした失態を忘れさせていないのはむしろそれを批判する人たちでもあるわけで。それなのに、次はやれ、だなんてとても言えませんよね。
もちろん次はもっと上手くやれる可能性だってあるでしょう。しかし、二の舞になる可能性だって当然ある。
もう猫はストーブの蓋に登れない - maukitiの日記
オバマさんの就任以前から明白で、故にずっと書いてきたお話ではありますが、オバマさんはあの子ブッシュさんの失態があるからこそ「余計に」再度の失敗が許されないわけですよ。それをやってしまえば一度目の失敗よりもずっと強い無能さの再証明となりかねない。だから彼はひたすらおっかなびっくり慎重に歩き続けなければならないと半ば宿命づけられている。
おそらく、イラク戦争が無ければもっと積極的にオバマさんが動いた、というのは間違いないでしょう。まぁぶっちゃけイラクがなければそもそも今のシリア情勢があったかというとそれも無い世界線となっていたんでしょうけど。



こうした前政権の遺産によって縛られる現政権、というのは良くも悪くもどこでも見られる光景ではあります。アメリカ外交面で類似していると個人的に思うのは、ボスニアソマリアでの消極性→積極性の経緯を思い出す事例かなぁと。あの時は、今と全く逆にボスニア民族浄化があまりにも喧伝されながら放置した結果の反動として、続いて起きたソマリアではなんとなくイケイケドンでやってしまって痛い目にあったんですよね。今のシリア→イラクという流れもベクトルが逆なだけでそれとほとんど一緒でしょう。
あるいは例えば本邦だって、あの民主党政権があったからこそ今の安倍政権の振る舞いがあるわけで。「今」だけを見ても仕方ない。トウェイン先生が言うように、私たちは良くも悪くもストーブの蓋で痛い目にあった猫と大して変わらないのです。猫はもう二度とストーブの蓋に登らなくなる。


過去の失敗を教訓とする美徳とは、過去の失敗に囚われ動けなくなる恐怖と表裏一体でもある。どちらに転ぶかはそんなのぶっちゃけ結果論でしかない。それはアメリカだけでなく、日本やドイツを見ても一緒でしょう。
その意味で言えば、小手先の変更はともかくとしても、オバマ政権である限り根本的にはアメリカの対シリア政策が急に変わることはまずないのではないかと。そしてアメリカが動かないということは、そのまま国際社会から放置されるシリアという意味でもある。
いやぁ政治ってめんどくさいよね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?