ただの戦争よりも破壊的な経済制裁

「効果がない」どころか「効果がありすぎる」故のジレンマ。


ルーブル危機でロシア経済はもう手遅れ | ビジネス | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということであれよあれよと経済危機まっさかさまなロシアさんちであります。それこそウクライナ問題からの経済制裁が決まった当初は、ぶっちゃけここまで大きなダメージを与えることになるなんて思ってもいなかったなぁと。
むしろ個人的にも当時懸念していたのは「それで効果が上がらなかったら、次はどうするの?」という事だった点を考えると、予想は真逆で大ハズレですよ。

 ルーブルが暴落しているのは、原油価格が下がっているからだ。原油安がロシア経済を苦しめている。石油とガスで税収の半分を賄う政府にとっては悪夢だ。そして輸出品の価値が下がれば、通貨ルーブルの価値も下がる。

 同時にウクライナ問題で欧米の経済制裁も受けている。ロシアの政府系銀行や石油企業が発行する債券のうち、満期までの残存期間が1カ月以上のものの取引を禁止している。つまりこれらのロシア企業が債券を発行して資金を調達しようとしても、30日未満のお金しか借りられないということだ。金利をさらに引き上げても、経済を立て直して資金を呼び戻すことはできない。

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結果としてみれば、経済制裁だけではなくそこに劇的な石油値下がりが加わることで、ルーブルひいてはロシア経済そのものに致命的なダメージを与えることに成功した。
ぶっちゃけここまで短期間で効果が出た、ロシアのような曲がりなりにも大国に大してやった経済制裁というのは、史上類を見ないレベルなんじゃないかと。それこそ冷戦勝利に導いたレーガンさんがソ連に仕掛けた軍拡競争(=経済競争)よりもずっと直接的にロシア経済へと打撃を与えることに成功している。冷戦時代とは違ってロシアをグローバル経済に取り込んだ今だからこそ可能になった、アメリカが有する『経済制裁』という強力すぎる切り札。
おそらく、ただの通常兵器や核兵器というだけでなく、経済制裁と言う意味でアメリカのパワーは今が絶頂期にあるのでしょう。
古くて新しい「テロリストも場合によっては自由の戦士である」という議論の現在について - maukitiの日記
以前も少し書いたお話ではありますが、これが『対テロ戦争』を通じてアメリカが磨き上げた手法だと言うのは面白い構図だよなぁと。テロ資金封じ込めの経験によって一層熟練したアメリカ規制当局の手管でもって、相手国経済に致命的なダメージを与えている。
CNN.co.jp : プーチン氏「クマは許し乞わず」 制裁などの経済苦境で
もちろんポジショントークによる要素は多分にあるものの、今のルーブルの状況を見ていると、プーチンさんが「攻撃を受けている」というのはかなりの面で適切な現状描写でありますよね。
ここまでの展開、つまり経済制裁と石油値下がりによるダブルパンチを読んだ上で、オバマさんなんかが経済制裁をしていたとすれば――普通に考えればアメリカ当局はそのようにオバマ大統領に説明しゴーサインが出た可能性の方が高い――おっそろしいお話だよねぇと。まぁ先日も書きましたけど、そんなアメリカの(経済戦争という意味でも)容赦のなさを世界でも最も実体験で知っている国の一つが私たち日本でもあるんですけど。


ともあれ、ここで皮肉で面白いお話なのは、むしろあまりにも効果が上がり過ぎて困っている現状の方だと思うんですよね。大成功故のジレンマとして。効果がないのも問題だったけれど、あり過ぎるのも問題となっている。
ルーブル下落で欧州が露の不安定化に懸念 独で制裁維持に温度差も - 産経ニュース
元々ロシアに同情的だったドイツさんなんかが心配しているように、むしろあまりにも効果が上がり過ぎてロシアを追いつめまくっている現状。ロシアがあまりにも弱ると困るのはヨーロッパでもあるのはあのソ連崩壊後の混乱波及の経験からも確実なわけで。そして現状の危機が、まさにソ連崩壊後にあった最悪の経済危機と比較される時点でその大きさがよく解りますよね。
同時に更なる懸念としてあるのが「敵を追いつめすぎると暴発する」というのは私たち日本自身の歴史でも証明されるように、古今東西の歴史から読める教訓でもあるわけで。
――だからといって、この経済制裁を緩める為の出口戦略もまた見当たらない。

そもそも、通貨統制はうまく行かないかもしれない。ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、アンダース・アスルンドは、「世界中で一番、通貨統制を逃れるのがうまいのがロシア人だ」と話している。ロシア経済を救うために今できることは何かたずねると、彼はこう答えた。「経済制裁を終わらせることが唯一の策だ。他に選択肢はない。経済制裁が無くなれば、政府系金融機関などの資金調達は通常に戻る」

 もちろん、そのためにはロシアがウクライナ問題で西側の要求に屈しなければならない。しかしその可能性はありそうもない、と言わざるを得ない。

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引用先でも言われているように、それこそ今更ロシアがクリミアを返すなんてこと国内政治的にも絶対に不可能でしょう。こうなると着地点がまったく見えませんよね。出口の見えない石油値下がりと経済制裁。これでどこまでロシアは追いつめられるのかなぁと。
ロシア窮状の行き着く先について、まぁあまり楽観的にはなれないですよね。


一度始めてしまった以上、経済制裁を止めるには何らかの「口実」が必要なわけですよ。何も無いままにやっては単に(ウクライナであまりにも傲慢に振る舞った)ロシアをただ援助することにしかならない。それはプーチンさんが妥協できないのと同じ意味で、制裁する側である欧米の国内政治的にもハードルが高いでしょう。
可能性があるとすれば、例えばウクライナ問題よりも優先順位の高い協力関係のバーターとして、とか。でも現状の国際関係を見渡しても、ウクライナ危機よりも重要な問題はさすがにまだ見当たらない。このままISIS関連が悪化することで、シリア辺りで出来たりするのかもしれませんけど。


(石油値下がりというビッグイベントに重なることで)あまりにも上手く行き過ぎているロシアへの経済制裁。ここまで目に見えて効果が上がってしまうと、問題がその出口戦略の方になってしまっている現状。もしここでロシアが更に強硬な態度に出れば、一層やめられなくなるでしょう。でもやっぱり国内的にもプーチンさんがそんな態度を見せる可能性は、気弱になって欧米に「許しを乞う」態度よりもずっと高い。


いやぁほんと、この効果の上がり過ぎたロシアへの経済制裁について、今後どうするつもりなんでしょうね?
がんばれオバマさん。