スカーフ論争に続くフランスさんちの拡張競争の果てにあるもの

多文化主義の終焉まで後どれくらい?


仏紙襲撃、地元出身のジハード主義者の「報復」:JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで、イスラム過激派による直接のリスクというよりはむしろそれを受けての政治の不安定化の方がヤバイよね、という毎年恒例ユーラシアグループの2015年の十大リスク第一位に違わぬニュースになりつつあるフランスさんちのお話であります。

 だが、動機が何であれ、折しも極右政党の国民戦線(FN)が世論に大きな影響を持ちつつある時に、衝撃的な殺害事件は必然的に政治的な不安を引き起こすだろう。FNのポピュリスト的な戦略は、強い反移民のメッセージと、同党がフランス社会に対するイスラム過激派の脅威と呼ぶものと戦わないと言って主流派政党を激しく批判することに基づいている。

仏紙襲撃、地元出身のジハード主義者の「報復」:JBpress(日本ビジネスプレス)

先日の日記でも触れたように、この辺はその通りだよねぇと。移民問題単体というよりもむしろより大きな問題は、ヨーロッパの政治状況へのカウンターである、と。
まさにフランスのイスラム専門家であるオリビエ・ロワ先生やジル・ケペル先生が述べているように、現代社会では政治運動としての聖戦主義はほとんど成功の見込みなんてないわけですよ。そのテロは極々一部の支持者は得られても、今回の事件後のフランス世論を見ても一目瞭然のように、圧倒的大多数の世論なんて得られるわけがない。
仏でイスラム教施設狙った事件相次ぐ NHKニュース
ところが逆から見ると、必ずしもそうは言えないわけですよね。あからさま挑戦を受けた側は、今のまま無抵抗平和主義のように政治的に無策なままでいくわけにはいかなくなる。スカーフ論争でもあったように、本来であれば社会内部の問題として「顔を合わせて」穏便に妥協すべき問題であったそれは、やがて国全体を巻き込む形で原理主義イデオロギーによる拡張競争へと陥っていく。
12人が殺害されたフランス風刺新聞社襲撃事件を複数メディアや企業が全面サポート、襲撃原因となった週刊紙100万部を出版予定 - GIGAZINE
まぁなんというか、不毛ではありますよね。



実際問題として、この様な悲惨な事件を完全に防ぐことはまぁ難しいわけで。犯人が完璧なフランス語で「神は偉大なり」を叫んだと言われているように、彼らの多くはヨーロッパで生まれ育った「中の人」でもあるわけだから。内部からの脅威にドアを閉めても意味はなく、その内部の問題事態を解決する必要がある。
「文化的自由の為の多様性を維持する為に文化的自由を制限する」人びと - maukitiの日記
以前の日記でも少し書きましたけど、民主社会の基盤である「寛容」や「信用」を損なうことなく移民及びその二世三世を社会に溶け込ませることができるか、こそが多文化社会を維持存続していく上でどうしても避けては通れない問題であるわけです。そして世界的に見てグローバル化と近代化が進んだヨーロッパだからこそ、彼らは戦いの最前線に立つことになる。
――だって彼らのやってきた『多文化主義』って、結局は相手の文化との違いや摩擦を紳士的に「無視」し「見ないフリ」をすることだったから。当然生まれる両者の基本的ルールの違い。新参者に旧来のルールに全て従えと言うのは傲慢であるように、逆に旧来のルールを新たにすべて変えればいいというのも傲慢でしかない。でも、そんな両者の妥協点なんて人為的・政治的な形で明確に決められるはずもなかった。
かくして社会から隔絶し孤立したパリ郊外なんかを典型例とした西欧大都市近郊の居場所のない若者たちほどまさに多文化主義故に現地の市民社会から放置され、その空白を埋める過激主義に染まることになる。(概ね善意からとはいえ)無視され孤立した都市郊外に住む若者たちは、自分探しの果てに行き着いた自らのアイデンティティーの正当性を、社会に向けて証明しようとする。


新たな共生体系を生み出すのが先か、あるいはいつか見た風景のように経済危機と結びついてスケープゴートに飛びつくのが先か。
がんばれヨーロッパ。