戦う君の歌を戦わない奴らが笑うだろう――どころか後ろから石を投げている構図

もし安倍政権が本当に愚かでギルティだとすれば、ほぼ同じかそれ以上のことをやっている有志連合の各国政権も同じくギルティなの?



痛いニュース(ノ∀`) : 【画像】 官邸前からです。「安倍退陣!」「NO ABE」「後藤さんの命を返せ」「武力はいらない」 - ライブドアブログ
はてなブックマーク - 北丸雄二 on Twitter: "NYに住む友人たちがみんな怒りまくっている。今も電話で「海外で働いている私たちをどうして危険にさらすような演説をしたんだ。最後の一人まで助けるとか言っておいて何もできないなら、初めから黙っていてほしい。私たちは平和を貫く日本人だったのに、安倍のせいで狙われる対象になった」と。"
お、おう。まぁ確かにどうあろうと現実に失敗し二人の犠牲が出た以上政府には一定の責任があるので、人質救出までの交渉過程においては批判的に検証をすることは今後あって然るべきだしむしろ積極的にやるべきでしょう。ただそこから更に一歩踏み込んで「対イスラム国政策」の批判までいってしまうと、実際にはどうあろうが他国からの印象として、違う意味を持ってしまうんですよね。
ぶっちゃけこれってデモする本人たちが意図するところの『中立宣言』どころか、現在進行形で戦う人を背中から撃つ行為だよなぁと。
安倍政権へ批判をするのはもちろん結構ですけども、もう少しネタを選べばいいのにね。経済政策を中心に他にも一杯あるはずなのだから、わざわざこんな筋悪な所を狙わなくてもいいのに。いやまぁ嫌いな政権と少しでも一致したら死んじゃう症候群の人は、笑えばいいのか悲しめばいいのか、本邦には昔から少なくないんですけど。
【後藤さん殺害映像】「安倍首相演説はイスラム国を挑発する内容にあらず」駐日パレスチナ代表 - 産経ニュース
こんなイスラム国擁護に繋がりかねない主張を政権批判として言っていたらまず間違いなく、イスラム国と戦おうとしている欧米や中東諸国からはより大きな声で「安倍首相は正しい」とエールを頂くことになるのは考えてみれば少し解るお話だと思うんですけど。
以下、デモをする彼らが誤解しているであろう「消極的中立」と「積極的批判」の認識差についての適当なお話。




僕は基本的には自称リベラルで人道主義者だと思っているので、軍事支援はともかく非軍事支援である日本が表明した2億ドルという『人道支援』は悲惨な状況下――まさに犠牲となった後藤さんのような戦場ジャーナリストな人たちが決死の覚悟で伝えてくれているように――にあるシリア及びイラク難民を少しでも助けになるならば絶対にやるべきだとは思っています。ただそれでも別意見としては、ナショナリストとまでは言いませんけど自国中心主義や孤立主義あるいは絶対中立主義であるべきとする人たちが居たって、まぁそれはそれで一つの選択肢ではあるでしょう。
イスラム国によって苦しめられる現地難民は自業自得であり日本が支援するようなことではない」
素晴らしき自己責任論。まぁやっぱり個人的に死ぬほど傲慢な物言いでハラショーだなぁとは思いますけども、少なくとも現代日本において、そうした意見を主張することは自由であります。現代社会における究極の難題の一つでもある「税金の使い道の正しさの判定」という意味でも、常に私たちは税金の使い道に関して異議申し立てをする正当な権利がある。
実際、今のイスラム国の問題は大きな人道危機である故に、わざわざ私たちの血税である日本の税金を使わなくて他の誰かがやってくれるからフリーライダーになればいい、というのは道義性はともかくとして効率の上では概ね正しいと言えなくもない。国際的取り組みも協調もどうでもよく、自分たちさえよければそれでいい、と。


ともあれ、今回のイスラム国対応を批判することの問題は、そもそも端的に言って少なくとも今回契機とされる中東での安倍さんの『イスラム国』への対応姿勢及び声明としては、有志連合における非軍事支援及び人道支援国家主流派のそれとほとんど変わりない点にあるわけですよ。
安倍政権とアメリカ政治の「ねじれ」に危険性はあるか? | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
冷泉先生も「歴史認識から受ける印象はともかくとして」とエクスキューズしながらも述べているように、基本的には安倍さんの外交政策は国際社会(=欧米社会)の主流ポジションとしては決して逸脱していないし、むしろ中東での実際の軍事同盟に加わっているアメリカ以外の一部ヨーロッパ及び中東諸国*1なんかに比べたらずっと抑制的であります*2


繰り返しますけども、別に中立でいようとするのは一つの選択肢であるし、また政策自体を批判するのも国内的に収まっている間ならやっぱり安易にやっても構わないんですよ。こうした機会に便乗した形での対イスラム国政策を批判するということが国内で完結していればそれはそれで良かった。
しかし21世紀の現代世界に生きる私たちはそうではない。まさにクソコラで犯人側と歪な交流*3をしてしまったように、私たちの振る舞いだってそのままグローバルな世界へと流れて行ってしまっているわけで。

 犯人が海外だから、日本国内で交わされる議論は聞こえないとでも思っているのかもしれない。だが、ネットに掲載される情報は日本語でも簡単に自動翻訳にかけられるし、テレビ画像でもYouTubeなどに乗れば、世界各地で見られる。日本語で行われる議論は日本国内でしか消費されない、と思い込んでいるとすれば、大きな間違いだ。日本のメディアの間で、その発言が英語やアラビア語に翻訳されたら犯人にどのように伝わるか、自覚した上でなされた報道は、はたしてどれだけあっただろうか。

人質殺害事件に寄せて | 酒井啓子 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

この辺は酒井先生が指摘していて、まぁ仰る通りだと頷くしかありませんよね。
ぶっちゃけ国際社会の主流意見とほぼ等しい日本の対イスラム国政策を批判すると言うことは、それに準じている大多数の欧米諸国を批判することと等しい意味をもちかねない、あるいはテロリストにプロパガンダとして悪用されかねない「可能性がある」ことをホント解ってるのかなぁと。


もしほんとうに「安倍さんが人殺しであり平和だった社会に災厄を招いた」とすれば、世界中で同様の支援――その中には日本以上の直接の軍事攻撃も含まれる――をやっている国*4の首脳も同罪なの?
「イスラーム国」は日本の支援が「非軍事的」であることを明確に認識している - 中東・イスラーム学の風姿花伝
――そして実際にイスラム国の中の人は、軍事非軍事問わず同盟に参加する各国はギルティであると述べているわけで。


国内であれば安倍政権批判として完結できていたそれは、ところが現状の国際社会という枠組みで見れば別の重要な意味を持ってしまう。イスラム国と戦うべきだと日本と同様かそれ以上の覚悟を決め行動している国は欧米や中東諸国を中心に世界に一杯ある。素晴らしき対テロリスト戦争という国際協調の時代。
「イスラム国」事件、野党追及が及び腰の背景 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
――だからその政策を批判するということはほとんどそのまま「有志連合国の対イスラム国政策」を批判している日本国民、という構図と紙一重と否応なくなってしまう。挙句一部国会議員までそれに便乗しているっていうね。本来の意図がどこにあろうと、これほどテロリストを利する行動もありませんよね。
消極的な中立宣言ならまだマシで、実際にはイスラム国と戦う有志同盟への積極的な批判の方がより近い。結果だけ見れば、ただ日本の現政権への批判というだけでなく、よりマクロな視点では有志連合のイスラム国対応に反対する日本人という風景。ほんとまぁ真面目にイスラム国と(軍事か非軍事かは問わず)戦っている外国の人たちに対して失礼な話であるし、それどころか後ろから弾を撃つ行為だよなぁと。
中立であろうとするのはともかくとして、最低限後ろから撃ちかねない振る舞いは慎むべきじゃないのかと。


確かにイラク戦争の続きでもある『有志連合』の大義が完全無欠であるとは絶対に言えませんし、今回参加していない国(中国やロシアなど)もいっぱいある。ただ彼らで「すら」別にイスラム国への抑止に表立って異議を唱えているわけではないし、ましてや民主的なデモによって反対しているわけでもない。
もちろん官邸前で大騒ぎしている人たちがそうした国際社会の空気へそのものに反対しているか、についてはやっぱり疑問に思うかなぁと。ただただ今回の機会に乗じて、世界に向けて極悪非道な安倍政権への正義の鉄槌を見せるのだ、なんて盛り上がっているだけじゃないかと。正しい意味での無邪気な確信犯である方が可能性が高い気がします。


こうした日本ローカルの内輪の論理=機会主義的で近視眼な政権批判がイスラム国対策に奔走する国際社会から見てどのような影響をもたらしリアクションが返ってくるか、なんてまるで考えていない(ように見える)人たち。その身内ウケを狙った振る舞いが、世界中からどのように見られていることを理解していない(ように見える)人たち。
――いやもしかしたら本気で現在世界の主流にある『対イスラム国政策』の不義を訴え世界同時革命的ななにかを訴えているのかもしれませんけど。
まぁなんというか、身内ネタが広く拡散してしまうことでtwitterが炎上してしまう人たちを見ているようで、ひたすら脱力してしまうお話だなぁと。
もしイスラム国側がこうした日本特有の空気、池内先生なんかによれば有志連合の中でも日本は与しやすい『弱い鎖』である故に、敢えてその日本を狙っていたとすればやはり良く出来た計略だと感心するしかありませんけど。一体誰がこんなこと入れ知恵したのやら。


みなさんはいかがお考えでしょうか?