かくしてウォルマート戦略が民主主義政治をも変える

経済構造の変化が政治的革命を引き起こすと考えると歴史の必然なのかもしれない。


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今のトランプ旋風の構図を理解の助けになるお話の一つではあるかなぁと。

 筆者はトランプ氏の大統領就任以来、昨年5月にブルームバーグビジネスウィーク誌のジョシュア・グリーン氏が「トランピズム(Trumpism)」の意味をまとめた文章を思い起こしていた。トランプ氏はそこで自分の態度が即興的でも一貫性を欠くものでもなく意図的だと示唆していた。同氏は「労働者の政党」すなわち「18年間実質賃金が上がらない人々の政党」を作るつもりだった。共和党が「今から5年後、10年後には別の政党になっている」と語った。

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現代民主主義政治において、(まさにトランプさんが成功実例を示して見せたように)こうした視点が間違っているかというとおそらくそうではないでしょう。ただこのお話で重要なのは、そうした『政治家側』の慧眼ではなくて、むしろ少なくない有権者たちも同様に上記リンク先を引用すれば「18年間実質賃金が上がらない人々の政党」を望んでいる、ということなのだと思います。
もし今後を考えるのであれば、内外の大手メディアがやっているようなトランプさん自身への警戒ではなく、それを支持した有権者たちの存在、の方じゃないかと。


今更ながらの後の祭り、あるいは結果論を言うならば、1990年代以降に生産性が劇的に向上した所謂「ウォルマート戦略」がグローバル世界を席巻した時点でこうした未来を見通すべきだったのでしょうね。もちろん僕は凡人だったのでまったく読めませんでした。1990年代に米英で小売企業の急成長が起きた――というかその大部分がウォルマートによる――ことの帰結。
徹底的なコスト削減=人件費圧縮を一つの柱とした安売り戦略*1がスタンダードになると、まぁ遅かれ早かれ「18年間実質賃金が上がらない」という所に行き着くのは、考えてみれば当たり前の話でもあるわけで。もちろん大企業といえどグローバル世界では一層熾烈な競争を避けられず、故に下層人件費は最低ラインに張り付き続け、上層の人件費は高騰していく。その一方で魅力的な投資先である為に株主利益をひたすら生み出し続ける企業たち。


実際これまでそうだったように、そうした人たちを無視し続けることができたのならば、それも一つの選択肢ではあったのでしょう。選ばなければ仕事はある、移民に負けるような低賃金で働く奴らは自業自得だ、なんて。ところが先進国の多くでは悲しいかな民主主義制度を用いており、その有権者でもある「18年間実質賃金が上がらない労働者」たちが一定以上の数になると無視できない政治勢力を持つことになる。もう食べる足もない人たちが見出したいちかばちかの光明。
「移民を排し外国へ逃げる企業を呼び戻そう、アメリカファーストだ!」
――確かに何も変わらないかもしれない、しかしこれまで何も変わらなかったのだから賭けてみたって何も損はないじゃないか。失うモノがない人たちだからこそ至ることが出来る圧倒的正論の地平。


経済だけでなく、巡り巡ってウォルマート戦略が政治風景をも変えつつある、というのは面白い歴史のドミノだよねぇ。いや、経済構造の変化が政治的革命を引き起こすと考えると歴史の必然なのか。
自由貿易やめますか? 再配分しますか? - maukitiの日記
以前の日記でも書いたように、グローバル経済の下で労働者としての価値が避けがたく広がっていく隔絶を、再配分政策で埋めるのは民主主義政治安定性の為には欠かせないわけですよ。いやまぁ別にそんな「愚かな」有権者投票権を与えるのが悪いとするのも一つの選択肢ではあるんですけど。アメリカだけでなく本邦でもちらほら居たりするよね。レイシスト参政権はないのだ。


より強力な再配分か、それともトランプ旋風か、あるいは制限選挙か。
はたしてわれらが日本はどういう方向へ進むのでしょうね。

*1:もちろんコスト圧縮だけじゃなく物流や販売戦略の革命でもあった。