メルケル版「ミネルヴァのフクロウ」

伝統的ドイツしぐさというと身も蓋もありませんけど。


ドイツ州議会選、与党が歴史的大敗=メルケル氏の退潮拍車:時事ドットコム
波瀾が予想されていたバイエルンのドイツの地方選挙があったそうで。

 【ベルリン時事】ドイツ南部バイエルン州議会選が14日、投開票され、同州を地盤とする国政与党の一角、中道右派キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的大敗を喫した。メルケル首相が主導した2015年からの寛容な難民政策への批判が表面化した形で、メルケル氏の退潮に拍車が掛かり、大連立政権の先行きにも暗雲が漂っている。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018101500118&g=int

ずっとメルケルさんに不利と言われてましたけども、まぁ予想通りの結果ですよねえ。AfD大躍進。緑の党復活という辺りは予想外でしたけど。
振り返れば(左右に)ヤツらがいる - maukitiの日記
そこは2014年に我らスイスが通過した場所だッッッ! - maukitiの日記
バイエルンの選挙はうちのでも結構触れてきた日記ネタで、移民政策への明確なNOの突きつけという点でまぁ色々と分水嶺になったりするのかなあと思ったりします。今更ながらにそれを悟った、という意味ではやはり遅すぎる話でもありますけど。解っていて放置していたのか、それとも本気で解っていなかったのかは議論ありそう。


結局こうして振り返ると、しばしば批判されていたようにメルケルさんは自国よりもEU全体(それと国外からやってくる移民難民たち)をより注視していて、国内有権者たちの思いを軽視していた、という構図は正しかったように見える。皮肉で面白いのは、国内政策よりも国外政策こそが重要だ、とかつて同じように考えていたのが19世紀ごろのドイツの歴史家たちでもあったわけで。
まぁ当時のその価値観自体はそこまで間違っていないわけで。そもそも君主制において重要なのは、国内人民たちの支持よりも各国王朝との(血縁)関係や教会の承認でもあった。ビスマルク体制によるヨーロッパの平和の体現はそうやって生まれたのだし。そして同じくメルケル体制=ヨーロッパの平和=EUの進展がそうやって生まれたように。
しかしそうした優先順位は、やがて君主の弱体化=国内支持勢力への依存と『有権者』の誕生によって、ひっくり返っていく。
同時にナショナリズムな戦火も。戦争だ! 戦争だ! 戦争だ!




もちろんメルケルさんを擁護できる部分もあって、そもそも現在のEUの中核的価値観でもある「国境の開放」を進めれば、当然の帰結として国外からやってくる影響が強くなるという意味でもあるんですよね。ヒトもカネも犯罪も、一つのヨーロッパとして。そうなればもう少し解りやすく「外交」と「内政」で切り離せていたはずの問題が、より混じり合ってくるようになる。
そうなるとヨーロッパで『一強』となりつつあるドイツにとっては、更なるEU政治における影響力を発揮する必要が生まれ、しかしそれは同時にドイツ国内の意見の軽視に繋がっていく。国内意見を優先させればドイツは増長せざるをえず、かといって外交政策を優先させ過ぎれば国内意見の不満は積みあがっていく。
これまでは「戦後ドイツの総懺悔」で国内の不満を誤魔化してきたものの、しかし最早そんな大昔の罪悪感だけでは抑えきれなくなりつつある。そりゃヒトラーも帰ってきてしまいますわ。
いやあホント難しいかじ取りだよね。
メルケルさんだけが陥ったわけでは絶対にない、いつものザ・ドイツ的ジレンマ。


かくして、(イギリスとは違って、文字通り国家の命運を全て掛けた)ドイツにとってあまりにも重要である故にEU外交政策に夢中になってしまったメルケル。でも悲しむことはない、それは伝統的ドイツ国家の罠だったのだ。ドイツが強すぎる故に、その行動によってヨーロッパの未来も同時に決まってしまう。
ヨーロッパのドイツ人以外のドイツ大好きな人たちが言うように「ドイツが二つあれば」こんな悲しみはなかったかもしれないのにね。しかし悲しいことに今現実にあるのは強すぎるドイツが一つだけ。
そしてそれ故に、ドイツ周囲の人たちだけでなく、ドイツ指導者もジレンマに苦しむことになる。


いつか見たドイツ発の欧州混沌世界へこのまますぐに一直線かと言われるとまぁそんなことはさすがにありそうにないけれど、しかし、それでもこの路線修正が上手くいかないままだと将来的に危険性も生まれるかもしれない。有権者の政治への致命的な不信感から機能不全に陥り、その混乱に乗じた悪い人たちが跋扈してしまう時代へ。
国内政策と外交政策がより曖昧になった現代では、過去よりずっと難しくなっている。もうかれこれ13年以上やっているメルケルさんはどうにか逃げ切れることはできそうだけど、おそらく次の人はもっと難しい選択を迫られるかもしれない。
強すぎるドイツのかじ取りについて。


みなさんはいかがお考えでしょうか?