21世紀の『想像の共同体』

を生み出す、かもしれなくはなくなもないもの。





焦点:米政権の1000ドル給付案、課題は「どう全国民に届けるか」 - ロイター
英首相、ベーシックインカム検討 コロナ対策で一時的に: 日本経済新聞
海外ではすでに色々と案が出ていましたけども、
政府、全国民に現金給付へ 「リーマン対策」の1万2000円超す額で検討 新型コロナ対策 - 毎日新聞
いよいよ日本も「現金給付」の方向へ進みあるそうで。
ぼくはおかねもらったらうれしいよ。だってガチャいっぱいまわせるし!

政府・与党は17日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4月にも策定する緊急経済対策として、国民1人ずつに現金を配る「現金給付」を盛り込む調整に入った。リーマン・ショックを受けた景気刺激策として、2009年に1人当たり1万2000円の「定額給付金」を配布したケースがあるが、今回は低迷する消費の底上げに向け、それを上回る金額の給付を検討する。

政府、全国民に現金給付へ 「リーマン対策」の1万2000円超す額で検討 新型コロナ対策 - 毎日新聞

もちろん批判やデメリットを挙げることはできるでしょうけども、まぁこうした一律な現金給付には(おそらく日本政府の人はそこまで考えてないでしょうけど)民主主義政治制度における政治的メリットもあるんですよね。
それはただ単純に有権者へのバラマキという要素だけではなくて、全ての国民を、良くも悪くも平等に扱うことになるから。


もちろん「本当に必要な人に」「必要な分を正しく」給付することが出来るのならばそうすればいいんですよ。
フリー給付金4100円「ふざけるな」 立憲・蓮舫氏:朝日新聞デジタル
前回の通常日記でも触れたように、蓮舫さんが怒ってたことそれ自体は正しい――かといってそうしたきちんと個別の事情にあったやり方が現実に(しかも時間制限のある中で)できるかどうかは別問題なんですよね。
ぶっちゃけ誰もが満足する形なんて不可能でしょう。
完璧にニーズとタイミングを把握することは神ならぬ私たちには不可能だし、そもそも人間がやれば汚職や嗜好による選好は避けられない。
だってにんげんだもの
――この辺は所謂『共産主義』が失敗する理由と同じなんですよね。
机上にある『完璧なリソースの配分状態』が理論として存在することを認めることはできるものの、かといってそれが私たちの人間の能力で維持運営していけるかどうかは別問題である。
悲しいかな愚かで矮小なニンゲンの手にはあまりすぎてしまう。
問題はその不可能性にとどまらず、良かれと思ってやった政策が、むしろ社会の分断を加速させることだってあるわけで。
それこそ上記の蓮舫さんの言葉のように、正社員と非正規とか、老人と若者とか、子育て世代とか、まぁ多く貰えなかった方が内心不満に思うのは間違いない。



特にそれが問題になっているのはアメリカの福祉制度で、その資力評価を基礎にした福祉政策は貧しい人たちの状態を固定化させ、またそれが大多数の中間層の反感を買い社会分断を煽る原因の一つとなっているわけでしょう。
私たちの日本社会だって生活保護受給への不理解や、年金や医療費の社会福祉制度の世代や経済格差の不満のボルテージは徐々に高まってきているように。


経済格差が進めば進むほど、この「福祉政策が生む分断」への道程は舗装されていく。
更には、福祉政策の規模が膨らむということは、レントシーキングなインセンティブを生み、必然的に失敗の余地も大きくなるという事でもある。
もちろん上手く失敗や人々の不満をできる限り解消できればそれでもいいでしょう。
常に上手くいくならば。
そして私たち有権者が曇りなき眼で、その福祉政策を許容することができるならば。


普段はそうした鬱屈した内心は抑え込まれているものの、何かの社会的騒乱の弾みに爆発してしまうと……、
そこでもし不平等に見えるような光景が広がっていたら……、
「一部のヤツらだけが得をするだけじゃないか!」
「我々の手で、民主主義のチカラで、公正な社会を取り戻すのだ!!1」


かくして弱者救済の道は、他ならぬ我々有権者の手でも後退していくことになる。
いやあ地獄だよねえ。




こうした状況で登場するのが狡猾なBI信者たちの悪魔の囁きであります。
「ユニヴァーサル・ベーシックインカム」のパラドックス:伊藤穰一|WIRED.jp

「もういっそ最初から全員に配っちゃえば、少なくともこの歪んだ福祉政策による社会分断は解消できるよ!」
「僕たちは国民みんなをその属性を問わず尊厳を以て平等に扱ってほしいだけなんだ!」
これにはリベラルな民主主義者たちもニッコリ。
ちなみに、この場合の尊厳さの度合いとは、言葉ではなく金額である。


――という斜め上、身も蓋もなく悪く言えば「考えるのをやめて」しまうのが、一部のBI支持な人たちのポジションでもあるんですよね。
個人的にも、消極的賛成としてBI政策を支持する理由の大きな部分がコレかなあ。
一部の人たちが夢見た再配分政策は、結局、(皮肉にも民主主義政治故に)上手くいっているようには見えない。
それならいっそもう多少瑕疵はあっても強引で究極な再配分に舵を切ってもいいのではないか、なんて。


そうした社会では少なくとも「見かけ上の」平等は実現できるから。
そうすれば政治分断を和らげられる可能性が高そうだから。
G・エスピン・アンデルセンの『福祉資本主義の三つの世界』なんかに詳しいですけれども、こうした「普遍主義的福祉モデル」そのある種の極致であるユニバーサルベーシックインカムというのは、単純に経済・福祉政策というだけでなく、
その副次効果として民主主義政治社会の多くでで進む社会分断を和らげる効果がある、と見られているんですよね。


国家による公平平等な給付をすることで人々に同じ共同体の一員だという、多分に幻想的でありながらもそのナショナリズムな帰属についての確信を提供することができる。
これこそ21世紀の『想像の共同体』である。
我々はベネディクト・アンダーソンを越えていくのだ。


家に帰るといつも死んだフリをしている私たちの民主主義ちゃんを救うにはベーシックインカムしかない!
経済危機や社会保障問題で話し合われる対策の、その平等性の担保について。


みなさんはいかがお考えでしょうか?