『ムーラン』が教えてくれる、リベラルな私たちの不都合な過去

はたしてここでディズニーをぶっ叩くことで我々の不都合な歴史を修正できるだろうか。




ディズニー新作映画「ムーラン」、新疆で撮影 エンドロールで発覚 - BBCニュース
大炎上しつつあるディズニーの新作映画だそうで。

ディズニーの新作実写映画「ムーラン」で、撮影の一部を中国・新疆ウイグル自治区で行っていたことが明らかになった。新疆をめぐっては、中国政府がイスラム教徒のウイグル人を迫害しているとして、国際的に批判が出ている。

「ムーラン」のエンドロールでは、新疆自治政府の治安機関に謝意を表明している。新疆では過去数年間で、100万人超のウイグル族と他の少数民族が、収容施設に入れられているとみられている。

ディズニーは撮影地や協賛をめぐる議論についてコメントしていない。

ディズニー新作映画「ムーラン」、新疆で撮影 エンドロールで発覚 - BBCニュース

うーん、まぁ、そうねえ。
アメリカでも普段から『政治的に正しい』ことをやっている天下のディズニー様なのだから、中国でそれをやるのも当然だよね。
それぞれの社会には(いくら自由だからと言っても)言ってはいけない・やってはいけないローカルなルールがある。
現地社会においても『政治的正しい』ことを遵守するポリコレの鑑。
そのぽりこれってだれがきめてるの? という素朴な疑問がふたたび。


『政治的正しさ』とは場所や時間によって変わる変幻自在なモノだというのがよく解るお話だよね。
……ん? ということは普段その政治的正しさを使って、ローカルな文化や価値観を持つ他者たちに説教をして回っている人たちの正当性は一体どうなってしまうの????





ということで、個人的にここで思わず冷笑してしまう構図があると思うのは、今回の件が大きなニュースになりそうな理由というのが別に中国がウイグルやモンゴル自治区でやっている『弾圧』の苛烈さそれ自体ではない、という点だと思うんですよね。
中国政府の言動ではなく、これまでディズニーというポリコレ界隈のビッグネームにあった『政治的に正しい』企業がこんなことをしているというダブルスタンダードこそがこうしてニュースになっている主要因でもあるわけで。
ただ犬が人を噛んでもニュースにならないんですよ。
しかしそうした行為を普段から注意していた善良な市民が、実は犬と裏で手を結んでいて……と急にサスペンスが始まってしまっては我々はポップコーンを片手にwktkしながら注目するしかなくなってしまう。
今回の件がニュースになりつつあるのってつまりそういうことでしょう。


つまり、この「ディズニーがしでかしたから炎上している」という構図が逆説的に意味しているのは、我々は既に中国のウイグル弾圧に関してはもうそれが既にあるものとして存在を容認し半ば現状を受け入れている、という現実でもある。
今更「中国がしでかしたから燃え上がっている」ワケでは絶対にない。
いやあ我々のリベラルな価値観ってすばらしいよね!
でも仕方ないよね。それよりももっとヒドいことをしている自国の独裁者たちを追い出す方に忙しかったんだもんね。
それに何より、中国と無用な摩擦を避けるために他国の内政に干渉しかねないことには見て見ぬフリをするというのは、まぁとっても現実主義でリアリズムな態度でありYESだねと一理あると言うしかない。


我々がリベラルだったはずのディズニーの不誠実さを責めるとき、同時に生まれているのは、そうした価値観にどう見ても反する行為――『教育』目的の収容所キャンプの存在や強制不妊手術――が行われていることをこれまで黙認し最早大きなニュースにもならない現実でもある。



いやあ、二重の意味で私たちリベラルにとっては耳の痛いお話だよね。
ディズニーを不誠実だと責めてみてもいいけれど、しかしその非難の言葉は、ほとんどそのまま中国のウイグルでの振る舞いを事実上黙認してきた我々の不誠実さでもある。

大坂さんは一連の事態を受け、「沈黙が『裏切り』になる時がくる」とのキング牧師による演説の一節を引用したツイートをシェアするなど、抗議への参加を呼びかけている。(キング牧師は、「最大の悲劇は悪人の抑圧や残酷さではなく、善人の沈黙である」という言葉も残している。)

大坂なおみさん、「スポーツに政治を持ち込むな」ツイートに痛快な反論 『これは人権の問題です』 | ハフポスト

最近も大坂さんが良いことを言っていたよねえ。
これまで中国のやっていた人権問題に沈黙していたのは、本当にディズニー「だけ」だったの???
それなのに(映画制作時期と公開時期のラグによって生まれたちょっとばかりタイミングが悪い)ディズニーだけを責めるのはあんまりフェアではないよね。
まさにディズニーの不誠実な態度というのは、ほんの少し前までは当たり前にリベラルな私たちの間にもあった態度そのものなのだから。
中国が国内で人権を無視しているというのはネトウヨたちの妄言であり、それこそ外国人嫌悪なレイシズムである! なんて。


冷戦初期にあったヨーロッパでの旧ソ連体制への賛同や、あるいは本邦の『地上の楽園』賛美でもあった歴史のいつもの光景と言っては身も蓋もありませんけど。


ディズニーの不誠実さと、それが間接的に映し出すリベラルな私たちの過去の態度について。
――一方で、他国の内政には安易に介入すべきでないというリアリズムなポジションに立つ人たちはただポップコーン片手にその不誠実さをゲラゲラ笑っていればいいお話でもありますので、気楽に笑っていればいればいいと思うよ。


みなさんはいかがお考えでしょうか?