トルドー「あなたの神である『表現の自由』を試してはならない」

でも彼のように強くない、平凡で弱い私たちは他者の預言者を使って試すのをやめられない。




カナダ首相「表現の自由には限度がある」 仏の風刺画事件受け 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
更に炎上が広がっているムハマンド風刺とその殺害のお話。

トルドー氏はこの日、前日に臨んだ欧州連合EU)首脳会議での発言と同様、フランスでこのところ相次いでいる「非常に凄惨(せいさん)な」攻撃を非難。一方で、仏風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)が掲載したように、イスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺画を見せる権利について聞かれると、「表現の自由は常に擁護される」としながらも、「だが、表現の自由に限度がないわけではない」と主張。

 さらに、「他者を尊重して行動し、同じ星に暮らし社会を共有する人々を恣意的あるいは不必要に傷つけないよう努めるべきだ」「例えば、混雑した映画館で(火事でもないのに)火事だと叫ぶ権利は誰にもない。常に限度がある」と述べた。

カナダ首相「表現の自由には限度がある」 仏の風刺画事件受け 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

まぁ正論ではありますし、表現の自由支持者である僕もかなりの部分で同意する所ではあります。
結局のところ、このトルドーさんのお話って聖書の「荒野の誘惑」と同じ構図になるとは個人的には思っているんですよね。

主なるあなたの神を試みてはならない。

表現の自由があるから(許されるから)と、他者の信仰をギリギリセウトなラインを安易に狙って侮蔑するべきではない。
当たり前の話ではありますけども、別にセーフにあろうがそのラインに近づけば近づくほど反発は大きくなるのは当然なんだから。
「ラインを越えてないからセーフだろう!」と開き直ってしまうのはあんまり筋がよろしくないんじゃないかと。



個人的には某あいちトリエンナーレも大体そんなポジションではありましたけど、平和で牧歌的な本邦内部とは違い、現在進行形でイスラム価値観との相克がおきているフランスにおいては、最後の火事の例え話の構図はあまりフェアではないと思うんですよね。
現状をより正確に表現するならば、

「例えば、混雑した映画館で(火事でもないものの、焦げ臭い「感じが」する、煙が見えたような「気がする」)というときに火事だと叫ぶ権利があるだろうか?」

もしかしたら、ただの勘違いかもしれないし、あるいはただの枯れ尾花かもしれない。しかし、もしかしたら、本当に火事かもしれない。
どちらにしても火事じゃないかと(おそらく本人たちは心底善意から)本気でそう思っている人たちが居るのもおそらく間違いないと思うんですよね。
そしてその上で「火事だ!」と叫ぶことの是非がここで問われているわけでしょう。


不安に駆られた人間たちが火事だと叫ぶことの是非について。


これまでのように(ある意味で余裕を見せつけるような)穏健的ポジションを採ることができていたのは、神ならぬ『表現の自由』の存在を絶対的に確信していた、という大前提があったわけでしょう。
まさに聖書の中でイエスがそうしているように。
ところが凡愚たる私たちは、余裕がなくなればなくなるほど神の存在を確かめようとしてしまう=自由の存在を再確認しなければ不安になってくる。故に聖書でも「誘惑する悪魔」はそうした手法を使っているわけでしょう。


ここで面白い――といっては不謹慎ですけども、そもそもそうした不安の根源って「(これまでそうしたきたように)表現の自由側が配慮するように、イスラムの側もこちらに同じく配慮してくれるだろうか」という当然の懸念を背景にしているわけですよ。
ところが、フランスでこうしてテロや殺害事件が繰り返されることで、懸念通りの展開によって彼らの不安はより強くなっている。
つまり過激イスラムの人たちが殺害に走れば走るほど、彼らはより表現の自由という神の存在を再確認しようとする。
――だからこの構図って、フランスもイスラムの側も、どちらも自己成就予言の面も大きいんですよね。
ムハマンドを風刺すればそうなるのは当然なのに。
テロを繰り返せばフランスがそういう反応をするのは当然なのに。
かくして数々のイスラムテロを経た彼らは、最早精神的に余裕が無くなりつつあり、フランス的価値観の存在を「敢えて」確かめずにはいられなくなっている。





かの預言者のような選ばれし存在ではない我々は、他者の預言者を風刺してその存在を再確認せずにはいられない。
いやあ私たち人間って難儀な存在よね。



神の存在を信仰しきれない彼らが弱いからいけないのだ、なんて部外者のポジションから簡単に批判することは僕はできないかなあ。
不安感から神が許される限界をつい試してしまう弱き私たちについて。


みなさんはいかがお考えでしょうか?