陰謀論、科学技術恐怖症、健康神話、あるいはテクノロジー不信と呼ばれるなにか

よく日本で言われるような「トンデモ」「疑似科学」の根本はどこにあるんだろうか、なお話。


ということでもう幾度となく繰り返され定期的に浮上するいつものあれ。
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特に下のなんてもう古典並ですよね。なんか「砂糖こわい」でまた盛り上がっててびっくりです。
さて置き、結局そうした事にまで至る背景は一体なんなのだろうか?

狂牛病がもたらした悲劇

こうした食育やホメオパシーに名を借りた疑似科学やトンデモ科学はもちろん日本だけの話ではない。というかむしろ本場は欧米、ヨーロッパにより多い。アメリカよりもヨーロッパの方が、悲観的で、なにか健康に害があるのではないか、というような見方がずっと多い。その意味で日本の状況はヨーロッパの方に近い。


元イギリス首相トニー・ブレアは以下のように語っているらしい。

「確かにヨーロッパには、科学に対する不信が広がっている。科学の進歩は、人間にとって有用ではあるものの、有害でもあるという感覚だ。科学者に対する不信と、科学に頼りきった政府に対する不信にも通じる。この感情は生々しく、切実なものだ。この元をたぐれば、我々がBSEで体験した恐怖感に直結していると思う」*1

そんな陰謀論的な「我々はだまされている」「知らない間に健康が害されている」というような風潮が決定的に流行るようになったのは、そんなBSEの問題からだと彼は考えている。
初めに狂牛病に罹った大量の牛が発見された時、イギリス政府は牛肉の消費者たちに、まったく危険はないと言明してしまった。で、実際にどうだったかと言えば、人間もBSEと同様の病気に感染し、当時で数十人、現在までに百人以上の人々が死亡した。そうした被害が明らかになったあと、ヨーロッパ諸国は従来の主張を翻し、BSE感染が疑われる何百万頭という牛の処分を命じることになった。
こんな経緯があるからこそ、一部の人々にとっては「やはり健康被害はあるのだ」と胸に刻み、「もはや政府や専門家の意見をそのまま受け入れることなどできない」と考えるようになった。


そうした陰謀論の失敗例(一部の人にとって成功例だけど)が現在の状況を招いたと。まぁ確かにそんな思いに到達してしまうのは理解できなくもない。
そこまでは確かに正しかった。しかし彼らは狂牛病が危険だと証明したはずの、同じ科学的手法でもって証明された、別の何かの安全性をも否定してしまう。そこにあるのはよくある「人は見たいものが見える」的なオチでしかない。スタート地点は良かったものの、何故かとんでもない地平にまで至ってしまう。


結局そうした所にあるのは感情の問題である。
彼らの行動原理は「なんとなく不安」ということに起因していて、だからこそ、論理的にはその「なんとなく」を解明する事は出来ない。なんとなくって一体何なのか本人でさえも解っていないのだから。
だからこそ彼らは、嫌悪が生み出す知識にこそ、安心感を見出す。まぁとりあえずよく解らなかったら否定しとけば安心だと。

*1:『ヨーロッパ合衆国の正体』より引用