「なぜ国を守らなければいけないのか?」のマジレスを考える -前編-

えーとまぁ国際関係史と政治哲学の変遷でも学んでください、としか言いようがない気もします。堀江さんほどの方なら浅学な私が言うまでもなくそれなりに知識はあるんでしょう。だからまぁ故にポジショントークしてるなぁという気もしないではないですけど。でもそれだけじゃつまらないので適当にマジレス日記です。


http://wpb.shueisha.co.jp/2011/02/25/2809/

それに対し、「国を守るために戦うっていうのはどうかと思いますけどね」と同調するひろゆき氏。「戦争になるって想定すべきじゃない、無血革命みたいな形で譲渡されて、人が死なないんだったら、(他国に国土を譲渡しても)いいんじゃないの? みたいな気持ちはあります」

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さて、実際、現実主義の大家であるキッシンジャー大先生でさえもある条件下においては、「そもそも国を守る必要性はない」的なことを仰っているんですよね。より正確に言えば「国を守る必要性は生まれない」ではあるんですけど。つまるところ、彼が論じるところによれば、国家体制には二種類存在している。
一つは『正統なシステム』であり、もう一つは『革命的なシステム』であると。

  • 『正統なシステム』とはつまり正統な国家体制をとる国である。これら諸国はすべて互いに根本的な正統性をもっていることを認め合っている故に、他国を傷つけたり、その生存権を脅かしたりはしない。故に彼らは互いを、武力行使にまで至るような、敵とは見なす事はない。その意味で国を守る為に戦う必要性さえ生じないというのは一部において真であるとも言える。
  • しかしもう一つの『革命的なシステム』はそうではない。つまり革命的な国家体制である国とは「現状(の正統性)に満足していない国家」のことである。彼らは不満な現状を何とかして打破(革命)しようと試みる為に、常に紛争に悩まされることになる。このような国家は平和共存ということに満足せずに、どこまでも自らの正義を追及していく。


だからよくある質問な『何故どうでもいい領土を明け渡しちゃいけないんですか?』という質問に対してのよくある答えとして『もし一つ譲ったらまたその次もその更に次も、と延々と譲る羽目になるからだ』なんてものがありますけど、それって必ずしも正確というわけじゃないんですよね。だってアメリカだって沖縄を日本に返還したし、パナマ運河だって結局は返した。あるいはイギリスだってインドやスエズを結局は手放す事に合意したんだから。私たち日本だって過去にそこを所有していたからといって、朝鮮半島や台湾の所有権を今更持ち出そうなんて考えもしない。それはかつての占有が今となっては正統性など何処にもない、と認めるしかない故に。
こうしてお互いに相手の正統性を認めうる国家同士においては、国を守る為に戦う必要すら生まれない。相手のほうがより正統性があるという理由のみで、その戦いは終了するんだから。お互いがお互いの正統性を尊重する故に、最早戦争など起きないのだ、と。同様によく言われるような「自由民主主義国家間では戦争は起きない」理論ってそういうことから導かれるんですよね。


しかし相手が革命的なシステムを持つ国家であると話が変わってくる。彼らが求めているのはその領土の帰属だけでは大抵済まない。むしろそれは氷山の一角に過ぎなくて、最終的に彼らが求めているのは現状に対する不満であり、そしてそれは相手国家の正統性に対する疑念へと帰結する。そうした国家に対して、領土問題で譲歩する事は、自分たちの国家そのものに対する正統性を自ら傷つける事になる。同時にまた彼らの革命的志向を認めることは周辺国全ての国に同様の影響を与えてしまうことも招く。その正統性は相互に認め合うことにこそ意味が生まれているのに、もしそれが一部で傷ついてしまったら同じ紛争で悩む他の国の正統性まで怪しいものになってしまう。


結局の所『何故どうでもいい領土を明け渡しちゃいけないんですか?』という質問に対して、それは必ずしも常に毎回否定されるものではないんです。互いの正統性を尊重しあう国家同士であれば、それを認める選択肢も当然ありうる。そして実際にそうした事例はこれまでも歴史に何度かあった。
この質問において重要なのは、相手がどういう国家なのか見極める、ということなんですよね。相手が絶えず周囲に向けて野心を表わすような国においては当然そうするべきではないし、そうでない国家ならば、そもそも初めからそんな無理筋な主張は言ってこないのだから。


ということで最初の設問にもどって、「戦争になるって想定すべきじゃない、無血革命みたいな形で譲渡されて、人が死なないんだったら、(他国に国土を譲渡しても)いいんじゃないの? みたいな気持ちはあります」なんて発言はかなり無意味な話ではあるんですよね。だって人が死なないような平和的な譲渡であれば、それで戦争になるとも既にもう多くの人が考えていないし、実際に現代でもそうしたことは行われているんだから。上記で挙げた平和的な領土返還や、そしてまさに欧州連合が現在努力している統合への試みは『国民による選挙と投票』という形でそれがなされているわけなんだから。
逆にもしそれが平和的でないでないとすれば、まぁ、まず間違いなく、人は死ぬ。
だから「人が死なないんだったら」なんて前提には初めからあんまり意味がない。今でさえ、初めから平和的に譲渡・返還されるか、人が死ぬか、という二択しかそもそもないんだから。そしてそのどちらも選べない場合に、しばしば、両者合意の上で問題を棚上げしてなかったことにして塩漬けにする。


異様に長くなったので次回に続く。
「なぜ国を守らなければいけないのか?」のマジレスを考える -後編- - maukitiの日記