その正しさは説得に寄与しない

そういえば震災ですっかり「なかったことリスト」に入っているTPPのお話。経済的な正しさと、政治的な正しさは別問題ですよね、なお話。


http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110708-00000002-voice-bus_all
当たり前の話ではありますよね。まぁぶっちゃけてしまえば農業に限らず「保護政策はほぼ必ず失敗に終わる(被保護産業の衰退を招く)」というのが『自由貿易』が信奉される現在の国際経済におけるある種の定説でもあるわけです。


しかしそれでも尚、多くの政府はそうした方法をしばしば志向する。
勿論生まれたばかりの市場保護など一時期・短期的に効果を上げることがないわけではない。しかし長期的に見ればほぼ確実に補助金投入や関税設定等による保護的な政策は逆に衰退を招くわけです。それは日本の農業も当然例外ではない。
でもそんなことは基本的に多くの人は解っているんですよね。
だから今回の引用先のお話のようにその「正しさ」を唱えた所で、多くの人が解った上でそれを選択している以上、悲しいくらい意味がないんです。
何故(長期的に見ればほぼ確実に)マイナスとなる保護政策を採用し続けてしまうのかって、そりゃ結局の所、自由貿易は総体としては国家の富は増大させる一方で、しかし『一部の』人びとは逆に損失を被ることになるからなわけです。この一部の「損をする」人びとを説得できないから。そして一度始めた保護は、当然その受益者達の抵抗によって簡単に止めることができなくなるから。


TPPなどが目指す自由貿易のもたらすものってつまり、このプラスとマイナスの効果の差が存在する上で、それでも尚プラスの効果の方が上回る、ということでしかないんです。*1
そして故にその犠牲となる人びとから猛烈に批判されることになる、と。




通商白書:経済再生にTPPなど連携強化必要 - 毎日jp(毎日新聞)
asahi.com(朝日新聞社):「空洞化防止に部品や素材輸出促進を」 通算白書 - ビジネス・経済
ということで確かに彼らは正しいことを相変わらず言っているのだろうけれど、しかしそれで反対者を説得できるかどうかは悲しいくらい別問題であるわけであります。
そうした誘因をいかにして克服できるか、という点を議論しなければいくら正論を唱えた所で意味がないお話ではあるんですよね。つまるところ、誰が・どうやって、その「怒れる人びと」を説得するのか?
その意味で震災を理由にTPP加入を訴えるのはそこまで筋は悪くないかもしれないなぁとは思います。


よくこうした構造を「利権だ!」と叫ぶ方がいらっしゃいますけど、それは確かに正しい。しかし同時にそんな利権を担保しているのは(経済的利益に裏打ちされた)彼らの政治への注力の証明でもあるわけです。彼らは本質的に少数派でありながら、しかし政治へ全力で介入を続けることによってそれを守ろうとする。こうして少数派な利権集団は勝利するわけであります*2

*1:だからTPP加入の経済効果試算などで各府省でバラバラの見積もりが出る。

*2:民主主義の下での少数派の勝利 - maukitiの日記