いったいなんでこんなことになってしまったのかinユーロ危機

現在のユーロ危機と、かつてアメリカにもあった通貨同盟から得られる教訓について。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34058
まぁ確かに以前から指摘されているお話ではありますよね。うちの日記でも少しだけ書いた気がします。
ともあれ、その両者を較べてみてもっと明らかな類似性ってその失敗の過程だと思うんですよね。つまり『拡大がもたらした危機』という点で。


実際、これまで散々批判されてきたように、今のユーロ危機の発火点となったギリシャの粉飾されてきた財政状況にしても当時からずっと怪しまれていました。にも関わらず当時の欧州連合はいけいけどんどんなノリでひたすら拡大を目指していたのです。それぞれの財政状況に多少の瑕疵はあっても、しかしそれでも欧州連合拡大への勢いが重視されていた時代。まぁその結果が今のご覧の有様なわけですけど。そもそも彼らはそうして拡大するより先にまず内部改革すべきだったのだ、とは確かに後知恵で言うことはできます。彼らは一度立ち止まって同盟を深化させることなく、ただひたすらに欧州連合の拡大を目指していた。
そして同様にあの時のアメリカもまた似たような失敗をしていたんですよね。
元々独立から19世紀の前半までのアメリカは各州の「緩やかな同盟」のもとに連邦として存在していました。故にあの時代のアメリカは、それこそかつての欧州共同体がそうであったように、国際的にはそこまで強力なプレイヤーとしては認識されておらず実際その通りに経済も政治もそこまで強力なものではなかったのです。そんな危ういバランスのもとにあったアメリカ諸州はしかし、北と南、工業と農業、自由州と奴隷州、保護貿易自由貿易、等々による文化的・経済的断絶があまりに埋めがたかった為にその根本的解決はそれまでずっと『先送り』され続けていました。
そんなアメリカ独立当時から続く問題に、アメリカ人たちがついに対処を迫られる事件が起きてしまうのです。それが1800年以降から急激に進んだ西方拡大と、その帰結である南北戦争という内戦でした。それまで微妙なバランスのもとにあった南北州間のパワーバランスは、西方拡大によって否が応にも揺さぶられてしまったのです。その動揺はミズーリ協定などで抑え込まれてきた両者の相違をついに戦争という形で爆発させてしまいました。
あの時のアメリカ人たちもまた改革や同盟深化を先送りにしたまま拡大を行った結果、見事に致命的な危機を招いてしまったのです。


こうした両者の類似性は、しかし逆説的に教訓を与えてくれてもいますよね。今日のユーロの危機にしても、そして当時のアメリ南北戦争にしても、皮肉なことに危機を招いたことではじめて「永遠に先送りされるかもしれなかった内部改革」への広いコンセンサスを得ることができるようになったのです。
それまで『民主的手法』にこだわってきたが故に結果としてデッドロックな状況に陥っていた問題を、しかし緊急事態だという理由で彼らの中に強引に解決しようとする気運が生まれている。まさにかつてのアメリカが南北間の対立を『戦争』という身も蓋もない方法で解決したように。もちろん現代ヨーロッパ間で戦争が起きるなんてことは考えられませんけど、しかし彼らは平時なら拘っていたはずの民主的手法――ギリシャ国民投票案をあっさりと握り潰したように、これまでとは違うモチベーションを以って問題を解決しようと決意している。
その意味で、やっぱり今のピンチは最大のチャンスでもあるんじゃないかとも思うんですよね。民主的手法や話し合いで解決できなかったことを無理矢理にでも解決することのできる千載一遇の好機であると。


さて置き、南北戦争後のアメリカが(そうした強引過ぎる手法を後になって正当化する為に)その後に一つの国家としてのナショナリズムが盛り上がったように、もしヨーロッパの人たちが今のユーロ危機を多少強引な手法で切り抜けることができるとすれば、次にやって来るのは下記引用先のようなものになるんでしょうか。欧州連合がずっと頭を悩ませ続けてきた『民主主義の赤字』を究極的に解決する方法。

 要するに、米国から得られる究極の教訓は、経済同盟をつなぎとめるのは、財政や金融の制度というよりも、むしろ強い政治的結束を求める国民の願望だということだ。欧州は今、この模範を模倣しようと四苦八苦しているのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34058

南北戦争によってアメリカに生まれた一体性・ナショナリズムと同様に、所謂『汎ヨーロッパ・ナショナリズム』が勃興することになるのかなぁと。