あなたはセイフを信じますか?

神学論争に足を踏み入れつつある(かもしれない)現代民主主義政治のお話。


NHK Biz plus:ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授へのインタビュー – 道草
ということでスティグリッツ先生の非常に面白いお話。幾つか気になった点はありますけども、日記ネタ確保の為に今日と明日で分割。

■ただし、いまのお話の大前提は「政府は信頼できる」ということですよね。そこまで政府は信頼できるものでしょうか?

これは、政府が完璧であるという想定に基づいたものではない。全ての人間の組織はミスをするものです。そして、システムを設計する時には、人間の誤まりやすさを理解しなければならない。だからこそ、我々はチェック・アンド・バランスの制度を持っている。政府が機能しないときのシステム。市場が機能しないときのシステム。

我々は市民社会を必要としている。我々はチェック・アンド・バランスの社会システムの中で形成されている。だから、民主主義は非常に重要なんです。我々の民主主義は完璧ではない。それは分かっているけど、それがもっと完璧なものになるように努力している。われらが民主主義の明らかな失敗の一つに、お金の影響力が強すぎるということがある。政府を買収することもできてしまう。

だが、市場もまた完璧でないということも分かっている。市場は他の人にコストを押し付けようとする。だから、向こうには完璧な制度があるというわけにはいかない。我々は常に市場を、政府を改善するように努力していくし、その両方を監視するためにもより力強い市民社会を創り出していくことだろう。

NHK Biz plus:ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授へのインタビュー – 道草

以前の日記でも書いた気がしますけども、やっぱり個人的には、現在の「わかっちゃいけるけどやめられない」な経済危機の多くはこうしたジレンマを抱えているのではないかと思います。つまり、民主主義国家に生きてそれなりに教育を受けた人たちであるからこそ「そこまで政府は信頼できるものなのか?」という疑念を払拭できない。


でもまぁそれって、多分に「善き」エコノミストさんたちを筆頭にした賢人たちが、過去にあった政府の失策――という点においてはおそらくその通りだった――を批判しまくってきたおかげではないのかなぁと。
そりゃ誰も彼もが政府のやることを信用しなくなって、財政出動に対する広いコンセンサスなんて得られるはずもなく、かくして「だったらそんなバカな政府の役割を小さくしようぜ!」と緊縮財政一直線へ走ってしまうのも解らなくありませんよね。現代世界ではやっぱりそうした『国家の権限』は縮小されることこそが美徳であるとされているわけだし。
もちろん政治における国家の役割を拡大することと、(広義の)経済政策における国家の役割を拡大することは、必ずしも同義とはいえないでしょう。しかしまぁそんなことを普段から大多数の有権者の皆さまが区別して意識しているのかというと、そんなことはないんだろうなぁと。
ついでに、政府が万能ではないように、市場だって万能ではないことはそれなりに理解していても、じゃあ有権者の立場として「どちらに責任をおっ被せやすいか?」と考えたらやっぱりそういうことになってしまうのでしょうし。
良かれと思って国家の失策を追及し批難してきた人々。おそらくそれはそれで当然正しい行いではあったんでしょうけども、しかしそれは結果として「肝心の時に動けない政府」までをも生み出してしまった。民主主義国家に生きる私たちだからこそ、その彼らの当然あるべき「政府はバカなことをやっていた」という指摘のその最終的な責任は、結局有権者自身に返ってきてしまうからこそ。勿論それは深読みしすぎであり相手としてはそんなことまで言ってないと反論されるでしょうけども、しかしやっぱりそうした「政府=政治家の失策」を追及された際に、間接的に「お前らのバカな選択でこうなったのだ」と言われないためにも、という自己防衛的な要素があるのかもしれないと思う次第であります。
まぁなんという皮肉なお話ですよね。失敗に怯える私たち。


さて置き、上記リンク先にもあるように、そもそも民主主義政治の利点とは「間違っても挽回をしやすい」点にあるわけです。
別に失敗しない点だとか効率性を重視してそれを掲げているわけではなく、もし仮に間違っていたとしてもその路線変更をしやすいからという点こそが重要であるのです。ところが現代では多くの有権者が求めているのはそんな「修正機能」ではなくて、そもそも「失敗しない機能」や「正解そのもの」こそを求めてしまっている。その気持ち自体は解らなくはありませんよね。その方が手っ取り早いのは確かです。私たち人間が人間である限りどれだけ望んでも届かない地平ではありますが、しかしだからといってそれを夢見ない理由にはならない。
それを内心で求めるだけならともかく、ところが、そちらに気を取られすぎたせいで結果的に本来最大の利点だった「チェック・アンド・バランス」の機能までも失いつつある現状について。本末転倒といってはそれまでではありますけども。


政府が完璧ではないと理解しているからこそ、政府を大きくすることに二の足を踏んでしまう人たち。まぁその懸念はそれなりに正当だとも思うんですよね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?