ロケットとアイアンドームがもたらす平和

「いつだって武器が平和を生み出すのだ」という悲しい論理が再証明されてしまったなぁと。


ガザ地区、エジプトが仲介した停戦が発効 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでガザ停戦であります。先日の日記では「4年前とまったく同じ構図じゃないですかー!?」と勢い込んで書いてみたものの予想が外れてまた無知蒙昧っぷりを発揮してしまいました。良かった、ほんとうは地上戦なんてなかったんだ。
本邦の報道論調ではみんな大好きな「『アラブの春』による影響がこの展開をもたらした」や「エジプトのモルシさんががんばった」と書く所が多いですけども、しかしまぁ単純にハマスの側のパワーが増大したことによる正しい帰結ではありますよね。ソフトの面では『アラブの春』によってより広範な支持を得る事が可能となったし、ハードの面では見事に数百発のロケットをイスラエル市街へと撃ち込んで見せてその増強っぷりを証明してみせたハマスの皆様。そうしたソフトとハード両面でのパワーの増大が結果としてイスラエルへ譲歩を迫る事が可能となったのでしょう。
一方のパワーの増大によって、それまで不均衡だったもう一方との関係性が変化し、新たな均衡状態を生み出すことに成功している。
武器がもたらす(偽りの)平和。いやぁ皮肉なお話ですよね。




――そうした平凡なお話はさて置くとして。
ガザ地区からのロケット弾、迎撃費用は20億円以上=イスラエル| Reuters
今回の「意外な停戦」をもたらした「意外な要因」の一つとして個人的にすごく面白いなぁと思ったのが、ハマスさんたちのロケットを撃ち落としまくって脚光を浴びたあのイスラエルさんちの対空防衛システムである『アイアンドーム』であります。

より多くのロケット弾がイスラエルに飛来していた場合、多数の国民が犠牲になりイスラエルが大規模な地上侵攻を行う可能性もあったとされている。ある政府高官は大規模な地上侵攻が行われた場合の費用について、1日当たり最大3億8000万ドルに上ると推計した。

ガザ地区からのロケット弾、迎撃費用は20億円以上=イスラエル| Reuters

実際それがものの見事に上手く機能したおかげでイスラエル側の被害は少なかったわけで。よく指摘されているように、確かに運用コストの面ではかなり出費を強いられていますけども、しかしやはり失われる人命や代替戦略となる地上戦のことを考えればそこまで高い買い物ではありませんよね。
もし、防衛システムとしてまったく機能していなかったら上記引用先にある通りまた違った結果が出ていたんじゃないかなぁと。


またもう一つ今回の件に関連して大きな要素だったのかもしれないと思うのは、「アメリカの軍事支援によって」設置されたアイアンドームが活躍することで相対的にアメリカ側の対イスラエルへの交渉力が増したんじゃないかと思うんですよね。それが予想外に活躍したおかげで、イスラエルさんちは「より」その商品価値に魅力を感じるようになり、そして結果として提供者たるアメリカさんちは(間違いなく一緒に自分たちも非難される)地上戦を避けることに成功した。
そう考えるとアイアンドーム君が達成した、関係者ほぼ全員にポジティブな効果をもたらした今回の成果はすごいなぁと感心してしまいます。イスラエルさんちには対抗手段を、アメリカさんちには交渉力を、そしてハマスさんちには(本人たちは不満かもしれませんけど)相変わらずの軍事的弱者というイメージを、それぞれに提供している。
しかしほんと成功して良かったですよね。もしこれで迎撃に失敗しまくっていたら、やっぱりこちらでも逆のベクトルに事態を悪化させていた可能性は高かったのだろうし。


ということで今回の件を振り返ると、見た目のインパクトと同じくらい、実は政治的にもインパクトのある出来事だったのかなぁと思います。
アイアンドームすごい。