内戦の逆輸入

隣国で内戦を煽っていると思ったら、いつのまにか自国でも煽っていたぜ。


レバノンのヒズボラ拠点にロケット弾、シリア反体制派の仕業か 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでこれまでずっと懸念されていた、シリア内戦における宗派対立が徐々に周辺国――特にレバノンイラクへと波及しつつあるそうで。

 これより先、シリア政府と近い関係にあるヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ(Hassan Nasrallah)師は、反体制派と戦うシリアのバッシャール・アサドBashar al-Assad)政権に「勝利をもらたしてやる」と、政府側を支援する意向を表明していた。

 シーア派居住区であるベイルート南部が標的とされたのは、シリア内戦が始まって以降、今回が初めて。(c)AFP/Karim Abu Merhi

レバノンのヒズボラ拠点にロケット弾、シリア反体制派の仕業か 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

その決定的な転機となるかもしれない今回のロケット攻撃。
元々イラク戦争以来内戦気味にあったイラク*1はともかくとして、しかしレバノンさんちなんてヒズボラがシリア国内で暴れまくった結果、その余波が根拠地であるレバノンへこうして跳ね返ってきている辺り、なんというか皮肉な構図だよなぁと。自らが現地調達した宗派対立を見事に自国へ逆輸入している。必死になってレバノン政府が止めてきたものの、しかしレバノン国内では見事に親シリア派と反シリア派で対立するようになってしまった。
――といっても、完全にナスララさんが公式に支援していることをぶっちゃけてしまっているように、そのシリア政府軍支援の生命線であるレバノンという事実上の安全地帯=『聖域』を、反政府軍側は無視するわけにはいかないわけで。
有名どころとしては、ベトナムにおけるホーチミンルート、あるいはアフガニスタンにおける連邦部族直轄地域などの、所謂「国境外の安全地帯」。そこを潰さない限り、勝利することなどできはしない。ただの一国内に収まらない戦争。まぁ現代における戦争・紛争では当たり前となった風景ではありますよね。故にこうしたレバノンイラクへの延焼は必然の結果でもあるのでしょう。


さて置き、こうした状況下で一層悩んでしまうのは、外部の(キリスト教圏と見なされる)欧米諸国の対応でありますよね。
EU、対シリア武器禁輸制裁を解除 反体制派への武器支援が可能に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
一応は欧州連合は武器禁輸制裁を解除したそうで。でもこういう状況下で援助してしまうとかなりの確率で、イスラムの宗派対立に介入するキリスト教国家、という構図に見られかねないわけで。で、そうなると(日本も最近まで関わっていた)ゴラン高原の国連部隊にまで影響が及び、行き着く果てはイスラエルという寝た子まで起こしかねない。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130527/k10014861551000.html
寝た子こわい。いつまた生存戦略を叫びだすのか解らない人びと。何もしていないと批判されがちなオバマさん=アメリカさんちではありますが、少なくともイスラエルを大人しくさせておくことだけには熱心なので、その点では仕事しているよなぁと個人的には思います。

 ヘイグ氏によると、12時間以上にも及んだ会議の結果、EUは今月31日に失効する一連の制裁措置のうち、武器禁輸以外の項目は維持する。ヘイグ氏は一方で、英国は当面のところシリアの反体制派に武器を提供する計画はないと述べている。(c)AFP

EU、対シリア武器禁輸制裁を解除 反体制派への武器支援が可能に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

まぁやっぱりその意味では、欧州連合さんちも解除はしたものの、実際に役に立つ――対空砲や対戦車砲などの――兵器援助については前向きに検討します、という感じで時間が稼がれたりするのかなぁと。アメリカさんが以前にやっていた手管再び。「支援するよ」と言いながら送るのは武器ではなく一部医薬品だけ。禁輸制裁の解除はした――が、いつ供与するかは別問題だ。


完全にスンニ派シーア派の宗派対立の最前線となってしまったシリア内戦。
元々シリア国内にそうした要素が根強くあったというわけではなかったのに、しかし、戦争遂行の為にその対立が「人為的に煽られた」という点なのは何だかとっても救えないお話ですよね。まぁいつの時代も宗教戦争ってそんなモノなのかもしれませんけど。
ただの革命が内戦を経て宗派対立に、そして代理戦争にまでレベルアップし、ついには第三・第四勢力の登場へ。
がんばれシリア。