『ユース・バルジ』を恐れる権力者たち

一人っ子政策」の慧眼さについて。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37390
ということで中国さんちの「一人っ子政策」について。私たち日本でもかなり言われるお話ではありますが、あの劇的な政策を実行に移しそれなりに効果を上げた中国さんちにとってもかなり大問題であるわけですよね。世界に稀に見るほどの歪過ぎる人口動態。それこそ中国という国家の将来を左右するのではないか、と言われる程には。

 だが、これが起きるのは政治家が一人っ子政策の廃止を決めた場合に限る。そして今のところ、政治家は廃止に抵抗している。専門家の中には、一人っ子政策を廃止しても実際にはほとんど影響はない見る向きもある。調査によると、都市部在住の多くの親は、いずれにせよ子供は1人でいいと考えている。

 しかし政治指導者はまだ、そのような改革は突然の人口急増を招くと懸念しており、人口統計学者の嘆願をよそに一人っ子政策を固守してきた。上海社会科学院の左学金氏は「この政策は無用だ。中国はもう、一人っ子政策を必要としていない」と話している。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37390

しかしまぁ中国の政治指導者の皆様がこの問題に対して前向きになるのかというと、あまり可能性は高そうにないよなぁと。理由の一つとしては、上記引用先でも語られているように、おそらく、それを放棄した後にやってくるのは、農村地帯に住む人々の都市部への大量流入であるでしょうし。ただでさえ都市に流れ込む農民たちの扱いに困っている彼らがそれを容認するとはとても思えません。


そしてもう一つ、明らかに彼らは、少し前に話題になった人口ピラミッドから読み取れる一つの法則「ユース・バルジ(若年層突出による社会不安の増大)*1」を恐れているのではないかなぁと。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201103/Assaad.htm
まさに『アラブの春』の大きな要因の一つとも当初から言われているように、若者が占める割合が相対的に上昇すると、その社会は若年層の不満を受け止めるだけの許容限界点を超えてしまうのです。世界のほとんどどこでも起きてきた革命や暴動の背景にあるもの、少なくともその一つ。
故に「体制維持」が文字通り至上命題の彼ら中国政治指導者たちにとっては、その一人っ子政策を見直すのは非常にリスクの高い掛けとなるのではないでしょうか。それこそ『アラブの春』の中国への伝染をひたすら恐れ研究している彼らがそれを知らないはずがない。だからこそソーシャルネットも完全に監視下に置こうとするし、そしてその人口動態による帰結も気にしていないわけがない。あの天安門だってその帰結である、とも言われているわけだし。
まぁ都市部の出生率低下と併せて見れば、総体としてはもしかしたらそこまで劇的な変化はないかもしれませんが、しかし上記でも書いたようにただでさえ色々と騒動で喧しい(貧しい)農村地帯でそれを認めるのはやはり難しいだろうなぁと。世界でももっとも著しい格差社会において、その貧困に加えて若年層の増大(しかも貧しい層ほど増加する)までも加えたらむしろ格差は広がって、まぁものすごく愉快なことになってしまいそうです。


ついでにある意味で、こうして高齢化が進み「大人しくなっていく国民」というのもまた――少なくとも短期的には――権力者にとっては都合の良い話でもあるわけで。現状では意味がないどころか、プラスでさえある。もちろん長期的に見ればやはり厄介な問題となってしまうわけですけども、しかし現在進行形で「体制維持」の必要性は強くあるわけで。
いくら専門家が要請してみても、その政治的な要請のことを考えると、とても敵いそうにありませんよね。


しかしまぁ中国さんちの現状を見ると、この「一人っ子政策」は中国の体制維持にとてもプラスになっているよなぁと感心するしかありません。この『ユース・バルジ』という研究が一般化されるよりもずっと先に対応を採っていた人びと。なんという慧眼でしょう。