情強だらけのこんな世の中じゃ

そんなポイズン。


残業代未払い求めるドライバー「人間不信に陥る」|物流ウィークリー・物流と運送、ロジスティクスの総合専門紙
愉快なお話。確かに彼は誠実ではあったんでしょう。犯罪だけど。
まぁそうした社長個人の信頼関係に頼る手法が完全に時代遅れだと言うつもりもありませんが、しかし彼にはそれをやるだけのカリスマに欠けていた。その是非はともかくとして、しかしそれ(社員に涙ながらに我慢させる)をやるには、その社長の従業員を信じさせる、あるいは上手くだまくらかす個人的才覚が必要なわけで。一口にブラックといっても誰にでも出来る才能ではないのです。その意味で、彼は無茶を押し通し道理を蹴っ飛ばすだけのカリスマ社長の域に達していなかった。
しかしそのおかげで従業員は目を覚ますことができている。いやぁ、なんというか、悲しいお話ですよね。


ともあれ本題。
「利益のためなら(従業員は)死んでもいい」という経営者たちと、「安さのためなら(従業員は)死んでもいい」という消費者たち - maukitiの日記
彼らは「バングラデシュの労働者がどうなろうと知ったことではない」(と消費者は思っているに違いない)と考えている - maukitiの日記
以前の日記でも書いてきたように、やはり今回の社長もまた、結局のところ私たち利用者に追いつめられている構図といって間違いではないでしょう。昨日の日記でも書いた外食産業に並ぶ、ブラック業界として名高い物流産業の人びと。

 対応に苦慮していた時、新たな問題が起きる。残業代の未払いを要求してきたのだ。払えないと諭すと、今度は弁護士を伴って荷主へ駆け込んだ。

 同業大手の仕事をしていた同社は、荷主からその事実を聞かされ慌てた。後でわかったことだが、ドライバーは入社してから、すべての日報をコピーして保管していたのだという。確信犯だった。残業代の請求は500万円に上ったが、労働調停で妥協案を示し、半分の250万円で解決を図ったという。

 しかし、問題はそれだけで終わらなかった。荷主から台数削減というおとがめが来たのだ。仕事は長時間拘束される上に、運賃も残業代までカバーできる額には程遠い。トラブルの原因は、長時間の拘束をさせた荷主にも少なからずあるのだと社長は考えていただけに、「迷惑をかけたのは事実だが、台数削減には納得はできない」のが実情だ。

残業代未払い求めるドライバー「人間不信に陥る」|物流ウィークリー・物流と運送、ロジスティクスの総合専門紙

飽くなき「安さ」と「速さ」を求める私たち消費者の哀れな犠牲者たち。
だからといって――こちらも以前の日記でも少しふれましたが――消費者である私たちがかつての時代よりも殊更に強欲になり我侭になったのかというと、やっぱりそうでもないんですよね。
ただ、私たちは知ってしまっただけなんです。より安く、より良い商品やサービスがあるという事実を。そして一度それを味わった瞬間から、もうその便利さと安さを二度と忘れられないカラダになってしまった。私たちは「情報」という知恵の実を食べてしまったのです。かくして楽園から追放され、果てしない市場競争という世界で生きなくてはならなくなった。


よく笑い話として語られる「家電量販店店員へ価格.comをドヤ顔で披露する客」というものがありますけども、しかしこれはとても象徴的なお話であると思うんです。
つまり、この光景こそが、現代社会に生きる私たち消費者の姿を端的に示唆している。そこまであからさまにするのは少数派であるけれども、しかし一歩店を出れば各種情報端末を片手に誰だってやってもいるわけで。私たちは、いつでも、どこでも、簡単に、その商品やサービスの価値を比較することができる。そしてだからこそ、私たちは「安さ」に殺到するようになっているのです。
比較してモノを買うことは、昔はものすごい労力を伴うモノでした。情報収集の難度としても、そして物理的な距離としても。
インターネットが発達したことで劇的にその価格が下落した有名な事例――保険や葬儀代などは良く言われるお話ではありますが、しかしそれって多かれ少なかれほとんどすべての商品・サービスに共通しているのです。情報を比較し評価することで、隠されていた真の価格を明らかにしてしまった。
その比較が容易になったことで、私たちはより良いモノをより安く手に入れることが可能となった。なんて素晴らしき社会。でも、もう一つの事実としてあるのは、同時に私たちの内の「誰か」が――まさに上記トラック運転手のように、あるいは昨日のファミレスの店長のように、そんな過酷な要求をされるということでもある。


かつての時代には、今で言う「情弱」だらけだった。しかしそのことが逆説的に果てしない競争を抑止してもいたわけです。
――ところが今はそうではない。
情報はもう溢れ出てしまった。自称「情強」だらけのこんな世界じゃ、常に値段を最下限付近に、そして商品とサービスの質は出来るだけ高い所に近づけておかなければ勝負にならない。


送料無料に時間指定、なんてすばらしい世界だ!