『9・11以後』から再び『9・11以前』の時代へ

かつてあった無関心の時代への回帰。



シリア反体制派、要衝クサイルでの戦闘に「敗北」宣言 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア国際会議、6月中の開催を断念 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア政権側のサリン使用に「疑いなし」と仏外相、軍事介入も検討 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
シリア政府軍、反体制派が一時支配したゴラン高原検問所を奪還 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで、うわぁなんだかまた一段と大変なことになっちゃったぞ、という感じのシリアさんちであります。ヒズボラ全面参戦に、化学兵器に、国際会議の開催延期に、そして挙句にゴラン高原の国連要員の撤退。ずっと否定されてきたものの、なんだか本気でユーゴスラビアみたいになってきたなぁと。ほんともう一体どうするんだこれ。

 シリアで化学兵器が使われたことを確認したと発表した国は、フランスが初めて。またファビウス外相は、サリンを使用しているのは「政権とその支持者ら」だとも付け加えた。

 さらに同外相は「一線を越えてしまったことは明白。今後の対応について他国と協議していく予定だ」とし、「軍事介入も含め、何らかの措置を講じるかどうか」を決定するための「あらゆる選択肢を考慮中だ」と話した。ただし、実際に軍事介入に踏み切るという決定には「まだ至っていない」としている。

 一方、米国のジェイ・カーニー(Jay Carney)大統領報道官は、シリアでのサリン使用を正式に認定するには、さらに多くの証拠を要すると述べた。

シリア政権側のサリン使用に「疑いなし」と仏外相、軍事介入も検討 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

さらに多くの証拠を要する、ですって。それこそイラクの時には「あの」証拠で一気呵成に戦争を始めてみせたアメリカさんちが言うと、なんだかとってもせっとくりょくがあるなぁー。
――まぁそんな反省に立つアメリカさんちだからこそ、という言い方はできるかもしれませんけど。
オバマさんが『レッドライン』なんてモノをなまじ宣言したものだから、あの時とは真逆の構図「証拠があろうがなかろうが、どちらにしてもやる気がない」ということを見事に露呈してしまっている。これってあの子ブッシュさんのイラク戦争の開戦と対比されるような、オバマさんの失態となってしまうんじゃないかなぁと少し思ったりします。




でもぶっちゃけてしまえば、今更何か動こうとしたとこで手遅れ感を証明してしまうことにしかならない、とも言えるわけで。その意味で現状のシリアへの「放置」がそこまでの悪手なのかというと、人道的な観点はともかくとして、別にそこまで悪い選択肢というわけでもないのでしょう。
最早手遅れとなってしまったシリア。
一般に政治的闘争というのは「信頼性の争い」であるわけです。その対立する両者のうちどちらの大義名分が信頼できるか?
それが明確に勝敗がついていれば話は簡単だったんですよ。あるいはどちらかに大応援団がついていれば、広告合戦で無理矢理どうにかできたのに。同じく「介入が遅すぎた」事例とされるユーゴスラビアでは、特にヨーロッパのみなさんの強い後押しがあったからこそ、(NATOの結束を重視した)アメリカをどうにか巻き込んでの軍事介入が実現した。しかしシリア――少なくとも反政府側に対しては、彼らに人道的関心はあったとしても、しかし考慮すべき国益はない。
かくして国際社会が見過ごしている内に、反政府側は生き残るために過激派をも引き入れながら必死に戦い、宗教戦争の様相を呈してしまったシリア。そしてそのことが逆説的に、現在の国際社会=欧米の沈黙を招いている現状。だったら黙って政府軍に殺されていた方が介入の可能性が高かったのかというと、それも否定し切れないのがとても皮肉なお話であり、そして心底救えないお話でもあります。もちろん抵抗したこと自体が反政府側の失敗だなんて言うつもりはまったくなくて、むしろその意味ではアサドさんの上手い戦略の賜物なのかなぁと思うところではあります。
完全に内戦状況を作り出すことで、相手側にヌスラ戦線といった過激派を台頭させ国際社会からの肩入れを政治的に尻込みする状況を作り出し、更には対空兵器をロシアさんから積み上げることで介入の第一歩となるだろう欧米諸国からの『飛行禁止区域』『空爆』に対する軍事面でのハードルをも上げている。
当初はなんてバカなことを始めたアサドさんなんだろうと思っていたら、ここまでの経過を見ると思いのほか上手いこと進めているよなぁと。ヒズボラを完全に当事者にさせるなど、ただ軍事的に勝つだけでなく、見事に周辺国も巻き込んでいるし。国際社会=欧米の無関心を上手く利用している。


アメリカをはじめとする国際社会がもっと早く介入していれば話はもう少し簡単に済んだのにね。ただ、その時はその時で、やっぱりまた別の言い方で非難されていたのは確実であります。単独行動主義だの内政干渉だの。更にはもうここまで悪化してしまうと、進むのも引くのも地獄であります。やってもやらなくても文句を言われるのならばやらない方がマシだ、と考えるのは別に不思議な話じゃありません。冷戦後の介入祭りについての教訓といってはアレですけども。
少なくとも「主導」するのは絶対にゴメンだと考えているオバマさん。まぁやっぱり解らない話ではありませんよね。
以前の日記でも書いてきたお話ではありますけど、まぁなんだか『9・11以前』にあった風景とよく似てきたよなぁと。その意味では現状のシリアの放置っぷりは正常化の証でもあるのかもしれません。


がんばれシリア。