出来レースか、はたまた民主的勝利か

イランのすばらしき手際について。


イラン大統領選のロウハニ師勝利、各国は慎重ながら歓迎 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでイランさんちは選挙が終わったそうで。善戦こそ予想されていたものの、まさかの圧勝ということで、民主主義を愛する人たちにおかれましては色々と盛り上がっております。この報道量の差を見る辺り、私たち日本が気にする北朝鮮などとは違って、やっぱり国際社会=欧米のみなさまにとってはイランはよりクリティカルな問題なのだろうなぁと。グローバルな問題として取り扱われるイランと、どこまでいっても極東アジア程度の広がりしか持たない北朝鮮。一体何処で差がついてしまったのか。

【6月16日 AFP】14日投票のイラン大統領選で保守穏健派のハサン・ロウハニ(Hassan Rowhani)元最高安全保障委員会事務局長(64)が勝利したことを受け、大勢の市民が街頭に出てロウハニ師の勝利を喜んだ。

 ロウハニ師の勝利が伝えられて8年間に及んだ保守強硬派政権の終結が確定した15日、イランの首都テヘラン(Tehran)では数万人が街頭に繰り出し、同師の肖像写真を掲げて改革を支持するスローガンを叫んだ。

 群衆の多くはロウハニ師の選挙運動のシンボルカラーだった紫色や、改革派を象徴する緑色の衣服や装飾品などを身に着けていた。ロウハニ師のポスターを掲げ、緑色のリストバンドを着けていたアシュカン(Ashkan)さんという男性(31)は、「イランに再び希望が生まれたので今夜はうれしい」と語った。

イラン大統領選のロウハニ師勝利、各国は慎重ながら歓迎 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

ともあれ、今回のイラン大統領選挙がぶっちゃけ真っ当な選挙だったのかというと、全然そんなことなかったわけで。元々完全に民主的とは言えなかったものの、それでも今回ほどヒドくはなかった。まぁそんな「民主的」の結果が前回の選挙に伴う大混乱とも言えるんですが。
かくしてそんな前回選挙から学んだイランの監督者評議会たちは、今回、最高権力者であるハメネイさんのお眼鏡にかなわない候補者は次々と「失格」とすることで混乱を抑えることに成功している。その結果、最終的に最も改革派に近い人物が残った。皮肉にも改革派の票はそんな事前審査によって集中することになったわけですけど。
もちろんイラン市民の保守派に対する不満の表われという面もあるのでしょう。核開発に伴う国連の経済制裁によって、まったく上向く気配の見えないイラン経済。そうした現体制の不満の結果によってもたらされたのが、今回のロウハニさんの圧勝であったと。


ただまぁただ単に不公正というだけではなくて、同時にハメネイさんにかなり都合のいい結果でもあるんですよね。完全に改革票を圧殺するのではなく、むしろうまく圧力を逃す蒸気弁的な役割として彼を利用しているようにも見えます。
もし、それこそ完全に改革派候補を根絶やしにしていれば、それはそれで市民から大変な反発を巻き起こしたことでしょう。それならばと、敢えて一部を残すことで、上手く矛先を反らすことに成功している。実際ロウハニさんにしてもハメネイさんとはそれなりに近いと言われているわけだし。

 ただイスラエルは、イランの核開発政策を決定したのは最高指導者アリ・ハメネイ(Ali Khamenei)師であり、大統領ではないと指摘。イスラエル外務省は「選挙後のイランは引き続き、核やテロの分野における行動によって判断されるだろう」と警戒を緩めない考えを示した。

イラン大統領選のロウハニ師勝利、各国は慎重ながら歓迎 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

同時にまた、上記イスラエルさんちが即座に反応し釘を刺しているように、こうしてより忠実な保守派ではない――少なくとも建前上は「改革派」を掲げることで、国際社会のイラン包囲網を揺るがすことだってできるわけです。珍しく現状では足並みが揃っている対イラン国連制裁の解除の一歩となるかもしれない。


一石二鳥のロウハニさんの勝利。国内的にも対外的にも利益のある素晴らしい人選であると言うことはできるでしょう。
――その点はともかくとしても、果たして一体誰の選択なのか、と言われるとまた別の問題ではあるんですが。


しかしまぁ色々と政治が騒がしい中東にあって、イランさんちのこうした対応は見事なモノだなぁと逆に感心してしまいます。
それが、かつて「中東で最も進んだ民主主義国家」と言われたイランであるのはさすがと言っていいのか、それとも、皮肉な結果であると言えばいいのか、やっぱり悩んでしまいますけど。その意味では『アラブの春』以後の混乱に苦しむ国々にとって、今回のイランの(異常な)選挙は、今後のある種の指針となったりするのかもしれませんよね。
いかにして改革派を潰しつつ、かといって一線を越えさせないように不満を逸らすことができるか。その是非はともかくとして、『アラブの春』を経験した国々はイランに学ぶ所は多いのではないのかなぁと。


さすが『春』の先駆者たるイランの宗教指導者たちは、新人たちとは手際が違うな! なんて。