でもアメリカのアフガニスタン及びパキスタンでの対タリバン戦争を手助けしようとする国はどこにもなかった

そして見捨てられていく両国の教育を受ける権利を侵害された少女たち。


マララさんが国連で演説「ペンと本で世界は変わる」 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News
マララさん タリバン銃撃乗り越え国連演説全文「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンでも世界を変えられる」 | ハフポスト
ということで「教育を受けようとした」ことで現地タリバンから銃撃され奇跡的に一命をとりとめ、一躍文字通りアイドルとなったマララさんであります。で、そんな彼女が国連で演説したそうで。
米政府がアフガンからの完全撤退を検討、米紙報道 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
オバマさんがアメリカ軍をパキスタンから手を引き、アフガニスタンから完全撤退させようとしているこの時期にこの演説が出てくるというのは、あてつけというかなんというか、やっぱり愉快なお話ですよね。

親愛なる国連事務総長、教育には平和が欠かせません。世界の多くの場所では、特にパキスタンアフガニスタンでは、テロリズム、戦争、紛争のせいで子どもたちは学校に行けません。私たちは本当にこういった戦争にうんざりしています。女性と子どもは、世界の多くの場所で、さまざまな形で、被害を受けています。

インドでは、純真で恵まれない子どもたちが児童労働の犠牲者となっています。ナイジェリアでは多くの学校が破壊されています。アフガニスタンでは人々が過激派の妨害に長年苦しめられています。幼い少女は家で労働をさせられ、低年齢での結婚を強要されます。

マララさん タリバン銃撃乗り越え国連演説全文「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンでも世界を変えられる」 | ハフポスト

まぁそこに突っ込むのは野暮なんでしょうけど、敢えてここでわざわざインドやパキスタンに言及する辺り、とても印パ間の関係性を象徴していてくすっとしてしまうお話ではあります。多分大人か誰かが書かせたんだろうなぁ。バランスの取れた演説とも言えるんですけど。パキスタンだけが一方的に悪いわけではないのだ! なんて。
時事ドットコム:「マララの勇気」映画に=銃撃のパキスタン少女、7月から印・英で撮影−インド
ついでにそんな彼女の波乱の人生について「インドで」映画化されるという辺り、穿った見方をすると、やはり国家としての広告戦略の要素はあったりするのかなぁと。パキスタンはひどいくに!



それでも、確かに彼女の演説は素晴らしいものであると言っていいでしょう。じゃあ彼女達の状況は改善しつつあるのかというと、やっぱりそんなことはないんですよね。つまるところ、むしろアメリカ軍がその地域から撤退しつつある事で、(再び)原理主義的な組織の優先目標は再びそうした身近な女性の権利を求める人びとへと向かうようになっている。
もちろんアメリカ軍のやり方がベストであったわけでは絶対にない。ブッシュさんからオバマさんに米国大統領が代わったことで、もちろん表面上は――名前としてはそのアフガニスタン戦略は変更されたものの、しかし本質的にはやっていることは大差なかった。結局アフガニスタンでは戦闘に終始するばかりで、真に現地住民が求めていたより市民生活に密接した教育支援や経済開発はそれはまぁ置き去りにされていたし、対テロ戦争を戦う中で無辜の住民を傷つけ、あるいはもっと身も蓋もなくパキスタンなどでは無人機で民間人を巻き添えに爆撃したりもしていた。
――ただ、それでも、彼らアメリカ軍の存在がある種の抑止力となっていたのは間違いないわけで。
アフガニスタンなんてアメリカ撤退後に再びタリバンがやってくる、というのはかなり現実的な恐怖として語られている事態であり、そしてそれに備える為に(当然腐敗したカルザイ政権及び国軍はあてにならないので)各民族勢力は再び独自に武装を始めているわけで。かくしてアフガニスタンは最早内戦一歩手前だなんて言われているのです。
一方彼女の出身国であるパキスタンも状況としては似たり寄ったりで、アメリカの無人機爆撃のせいでそれぞれ乱立していたはずのイスラム原理主義勢力たちは皮肉にも結束することになり、一致団結して「アメリカのやり方に加担するパキスタン政府への抵抗」という反政府勢力となってしまっていた。パキスタンアメリカ軍の無人機作戦を拒否するようになったのはこういう理由もあったりするんですよね。
そして、彼女が銃撃された地域では以前のような『平和』な状況になりつつある。



ともあれ、やはりこうした言葉は彼女だからこそ、大きな意味を持つ演説でもあるのでしょう。内部に立つ彼女からの勇気ある告発だからこそ。もしこんなことを、上から目線で先進国の人から言ったりしたら、おそらく文化的な争いとしても扱われてしまうだろうから。
基本的人権と文化的保守主義のコンフリクトについて。
しかしこのマララさんはそうではない。その意味では彼女はやはり、女性や子供の教育の権利を訴える人たちのやはり重要なアイドルでありメッセンジャーであり、まぁぶっちゃけ広告塔でもあるのでしょう。以前の日記でも書きましたけど、だからこそ、それに反対する人たちにとって『殺す価値』のある存在ともなっていたりする。


ペンと本を配れば世界が変わるのは間違いないでしょう。そして、上記アフガニスタンがそうであったように、結局戦争では根本的には何も解決しないということも。では、一体、誰がそれを配るのか。どこに(武装勢力が支配する社会の中でも)配るだけの『実効力』を持った人たちが居るんでしょうね?
ということでマララさんが告発しているのは、あのタリバンであると同時に、やる気のない私たちでもあるのだろうなぁと。