TPP交渉において日本の交渉力云々と同じくらい重要なもの

アメリカ政府の外交政策や通商協定交渉の暴走を防ぎ、そして足を引っ張る強力なロビーたち。


経財相、TPP交渉「今後も強い交渉力で国益実現へ全力挙げる」  :日本経済新聞
ということでとうとう私たちも足を踏み入れてしまったTPP交渉でありますが出遅れ感はもう今更どうしようもありませんので、まぁがんばれ、という感じではあります。そして案の定というべきか、目下最大のライバルとされているのがやっぱりアメリカであるわけで。
しばしばこうした時に語られる、「傲慢で強硬で非妥協的なアメリカ」という姿。
それは概ね間違ってはいないものの、しかし完全に正解というわけでもないんですよね。つまり、基本的にはアメリカは「政府」や「大統領」というレベルでほとんど常に自由貿易の推進に賛成と言っていいわけで。民主党政権にしろ共和党政権にしろ、それは大統領たちの数少ない共通した政策ではあるのです。
――ところが彼らのそんな目的とは裏腹に、いつだってアメリカという国家で政治をやるとしようとするならば、特定の利益集団=ロビーによる議会圧力、と戦わなければいけなくなる。
アメリカという国家への非難としてよく言われる「外交政策の一貫性のなさ」や「通商協定交渉における保護主義的な振る舞い」って結局こうしたところから生まれていることがかなり多いのです。もちろんそれは伝統的に連邦政府を信用しない議会の役割を強化することによる国家の暴走を防ぐ為の方策でありますが、しかし同時にその権限の強さは政府による決定の足を引っ張ることになる。
米、クーデターと認定せず エジプトのモルシー前大統領追放 - MSN産経ニュース
最近の例で言うと、エジプトの軍事政権についてのアメリカさんちの右往左往である「クーデター認定騒動」も同じ構図でしょう。
そこでネックとなっているのは「クーデターと認定した国家へは援助しない」という法律の存在であります。しかし、そもそも『外交』ってそんな風に簡単に割り切れるモノじゃありませんよね。外交は本来交渉と妥協で進めるもののはずが、法律で決めようとすると必ず二者択一を迫られることになってしまう。この辺はキッシンジャー先生も指摘していて、「アメリカの強圧的な姿勢を示す動きとして外国に批判される点は、国内の圧力団体の要求にこたえたものであることがきわめて多い」と身も蓋もなく述べております。
だからこそそうした活動に特に熱心なイスラエルロビーは、別に陰謀論でもなんでもなく、ごくごく合法的な手段としてアメリカの外交政策に影響を与えるのが可能となるのです。大統領直接にではなく議会へと圧力を掛けることで。
かくしてアメリカでは、殊更に多く、そうした政府による政策決定に出来るだけ影響を与えようとしてこうした法律が乱立し、端から見るとまるで矛盾した行動を採ることになる。単純に長期的展望がないからというよりは、むしろ国内的な勢力争いの結果として、超大国たるアメリカは世界中の国々を巻き込みながらその結果如何で右へ左へ動くことになるのです。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38316
ということで話を戻して、やっぱりTPP交渉でもアメリカさんのそうした振る舞いは当然適応されることになる。そしてまぁ通商協定交渉においては、上記外交政策よりもずっと強い圧力をアメリカ政府は受けることになる。そりゃそうですよね、だって直接に彼らの雇用や売り上げに直接関わってくるんだから。だからそれは日本にとってもそうであるように、あるいはそれ以上に、アメリカにとっても国内の政治的闘争でもあるのです。
国益と地元利益の相克。
地元政治家が選挙区対策に地元利益を優先しないわけがない - maukitiの日記
その間に立つ故に、アメリカという国家は建国以来ずっと、対外的には自由貿易の盟主でありながら一方で保護主義へと邁進する矛盾した国家という姿になるのです。

 予想されたことではあるが、悲しいことに、日本のTPP交渉参加に反対する声が米国内の圧力団体から上がっている。日本が参加すれば、米国の企業や消費者も大きな利益を手にするにもかかわらず、だ。
 最も強い懸念を表明しているのは、「デトロイト・スリー」と呼ばれる米国の3大自動車メーカーと全米自動車労働組合UAW)だ。
 日本国内の自動車市場へのアクセスとライトトラックの関税に関する、正当な面もあるが視野の狭い訴えはさておき(これらはいずれにせよ、自動車に関する日米の付帯協定で取り扱われる)、彼らは大きな要求をオバマ政権に1つ突きつけている。
 日本の通貨安政策または為替操作から身を守る何らかの策を講じよと求めているのだ。これについては、連邦議会議員の一部にも支持する動きがある。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38316

結局、このアダム・ポーゼン(ピーターソン国際経済研究所所長)さんの評論ってオバマさんがそうした業界団体からの圧力にどこまで耐えられるか? ――出来るだけ耐えて、実際には存在していない日本への為替操作対策になんかに陥ると交渉そのものが破綻するよ、ということを指摘しているのでしょう。
こうした業界団体からの圧力をいかにして宥め賺し誤魔化すか、というのはアメリカにおける大きな通商交渉に関わった歴代大統領のほとんど共通したテーマであるのです。そしてオバマさんも、やはり例外なく、現在それに直面している。


その意味で、私たち日本が気にするTPP交渉において、アメリカがどこまで強硬な態度に出るかどうかは――もちろん私たち日本の交渉手腕が問われているのは間違いありませんけど――実際にはオバマ大統領のその国内政治手腕に関わっている、と言っても過言ではないわけです。
おそらく、オバマさんがそこで負けてしまうとまぁどれだけ頑張ってもかなり旗色は悪くなってしまうし、逆にオバマさんがそこでそうした業界からの圧力団体をかわすことができればかなり可能性は期待できる。
日本郵政とアフラック:がん保険で提携、TPPで米に配慮の見方 (4) - Bloomberg
例の日本郵政アフラックの提携も、結局はそのアメリカ国内における政治的影響力争いの為であるのでしょう。だからこそその提携が「TPPの追い風」と言われるのです。


ロビーが跋扈するアメリカ政治。それは対外政策の決定の場でもやっぱり同じなのです。いやぁめんどくさい国ですよね。
ということで、がんばれオバマさん。