シンガポール成功神話の曲がり角

正真正銘「小国」である国家の生存戦略


シンガポールが外国人労働者を排斥へ | ビジネス | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということで日本でも、何かと賞賛する人の多いシンガポールさんちの変化の兆しのお話。それは良い方向か悪い方向かと聞かれれば、おそらく、あまり良い方向ではないだろう、というニュアンスで。
そもそも、シンガポールさんちってそれはもう典型的な(超)大きな政府による全体主義的な国家であるんですよね。確かに彼の国は、世界トップレベルで汚職度が少なく効率的で、物理的にもクリーンであり、その小さな国土からは想像できないほど豊かな国ではあります。ただまぁそうした要素は、それはもう身も蓋もなく強権によって維持されているわけでもありまして。国民の権利――ついでに言えば移民たちの権利も――を「かなり」制限することで、彼らは外資を呼び込むことに成功し、そして現在の経済的な繁栄をほぼ一世代と言う短さで達成した。政治活動の制限や、出産制限、労働規制、厳しい法律などなど。それは世界中で多くの国が目指したスタンダードなやり方「国家を安定させ、外資を呼び込んで途上国から脱出する」でありますが、この国ほど上手くやったのは他にはないと言っていいでしょう。とても抑圧的で、しかし有能なシンガポール政府。
その意味では上述したような、日本でもしばしば聞かれるシンガポールを見習えと言う人が、右な人たちだけでなく左側な人からも発せられるのは、まぁなんだか愉快なお話ではありますよね。




ともあれ本題。シンガポールの変化の兆しについて。

 与党・人民行動党(PAP)は65年の建国以来、長期政権を維持している。2年前の総選挙でも勝利したが、得票率は過去最低を記録した。「PAPは、まるで会社みたいにシンガポールを動かしている。いろんな国から外国人を連れてきて、私たちの仕事をやらせようとしている」と、タクシー運転手は不満を口にする。

 運転手の懸念は見当違いなように見えて、今のシンガポールの状況と合致している。政府の発表によると、11年に創出された雇用12万2600人のうち、8万4800人は外国人専門職だった。シンガポールには146万人の外国人がおり、人口の25%以上を占める。

 近いうちにPAPが政権を失う、と本気で考えている専門家はいない。しかし、次の総選挙で得票率はさらに下がるだろうという見方が圧倒的だ。

 PAPはそうした声にすぐさま反応し、外国人労働者に対する規制を強化。雇用主が限定されない個人就労許可証(PEP)は、以前は年収3万4000シンガポールドル以上あれば申請できたが、昨年末から年収14万4000シンガポールドルに上がった。

 一般事務など中技能労働者向けの就労ビザ「Sパス」の取得も難しくなっている。かつてはSパス保持者の雇用枠は従業員の25%だったが、今では20%になっており、さらに今年7月に15%に引き下げられた。

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選挙ではついに一党独裁の終焉が見えつつある状況下で、そんなシンガポールさんちが国民の不満の声に迎合する形で、正真正銘限りなく小国である彼らの成長のエンジンであったはずの外資への規制を徐々に強めていくのではないか、と心配されているのでありました。日本が小国だと自虐しながらも内向きな態度でやっていけるのは、実は日本市場が世界有数の大きな市場であるわけで。しかしシンガポールのような小さな国は本気で外資をどれだけ呼び込めるかが重要な生存戦略であるのです。
だから、実際それは危険なサインであるんですよね。元々シンガポール国民の政治的自由を抑制してきたにも関わらず、安定した一党独裁による政権運営を維持できてきたのは、代わりに国民の不満を解消させることができるだけの『アメ』を提供してきたからであります。逆説的に、これまでとは違い彼らが国民の要求に――もちろん別の見方では「正しく」とさえ言える――妥協しているということは、つまり彼らが抑圧の代償に見合うだけの『アメ』の提供が最早不可能になりつつあることの証左でもある。
しかしここで国民の声に応える形で、外資規制や外国人労働者の規制をやってしまっては、更なる負の連鎖に陥ることになりかねない。
グローバル化が進み東南アジアのライバルたちが次々と追いついてくるこの時代において、上記リンク先にもあるように、今後益々シンガポール外資と外国からの優秀な労働者に頼らねばいけないのです。優秀な人材を集める為には外国人労働者に頼るしかない。日本でもよく嘆かれる「(おそらく教育の性格がもたらす)創造性のある優秀な労働者の少なさ」というのは、そんな全体主義国家なシンガポールでも大きな問題となっているのです。


これまでも、そしてこれからも外資こそが繁栄の源泉であったはずなのに、しかしそれを規制せざるを得ないところに追いつめられつつあるシンガポール。まぁ確かに民主主義的には正しい進歩であると言えるのかもしれませんが。


でもまぁその姿は、ぶっちゃけタコが空腹のあまり足を食い始めたようにも見えてしまいます。シンガポール成功神話の曲がり角。
がんばれシンガポール