個人情報から得られる利益と、被った不利益のギャップ

なんとなく被害者。



派遣SE「金目当てで名簿売った」 ベネッセ情報流出:朝日新聞デジタル
ベネッセ漏えい:情報持ち出し常習 SE、数百万円で売却 - 毎日新聞
ということで身も蓋もなく「金」の為であったそうで。数百万円かー。これって逮捕されたとして、売却で得た利益はどうなるんでしょうね。荒稼ぎして逃げ切れたりするのかな。
個人情報保護の帰結としての価値高騰 - maukitiの日記
ともあれ、まぁ概ね先日書いた日記の通りかなぁと。
結局、重要なのはその社員のモラル低下やあるいは派遣だからどうだとかじゃなくて、その行為のリスク(失われる給与や待遇)に対するリターン=金銭的報酬の大きさがどの程度か、という点なのだと思います。
その意味では、正社員よりも派遣の方が一般に金銭的インセンティブを強く感じるだろうし、逆に正社員もより大きなアクセス権を持っていれば大きなリターンを得る機会も派遣より多いでしょう。だから派遣じゃなく正社員だったらこんなことならなかったなんてことも、絶対に、言えない。
どれだけ待遇や地位をあげても、そのインセンティブが上回ってしまえば、明らかに意図を持って行動する人=「魔が差す」人は必ず生まれるのだから。


問題は、今後こうした構図を一体どうやって抑止していけばいいのか? という所なのでしょう。
価値高騰を続ける個人情報という傾向自体はおそらく止めることができない。ならばその行為のリスク=お漏らしした企業への懲罰的対応も含めて検討すべきなのかもしれませんが、それって逆に隠蔽のインセンティブともなってしまうわけで。今回のように大規模であれば難しかったでしょうけど、ぶっちゃけもう少し小規模であったら、ずっと小さいニュースにしかならなかったし、企業側も出来るだけ些細な出来事としか扱わなかったんじゃないかと思うんですよね。


この問題がいつまでたっても温存される理由の一つは、例えば技術情報なんかその漏れるこのデメリット=被害者が明白であるものの、(その巨大さ故にある種の匿名性も生まれる『名簿』としての)個人情報を漏らされた側の私たちのほとんどの人にとっては「なんとなく気持ち悪い」以上のデメリットが見あたらない点もあるわけで。大多数の人にとって身に覚えのないDMが届くことはあっても、何か直接的に被害を被るわけではない。
一件一件の事例で見れば――かつて500円の商品券で誤魔化した企業があったように――そこまでの価値もない。まさに名簿業者の相場である一件10円〜20円程度の価値なんですよ。しかし、それが集まり数百万件の単位となると、普通に億単位のカネが動くことになる。名簿業者たちが扱う個人情報は、そうやって数を集めてこそ初めて価値が生まれるわけで。
ところがもう一方の私たちは漏らされたことにとりあえずは怒ってみるものの、しかしクレジットカード番号のような重要で直接プライバシーに関わる個人情報を漏らされたわけでもない以上、その怒りが持続的で本気なものになるかというとそれもあんまりないだろうなぁと。


少数の利益授受者と、圧倒的多数の不利益授受者。
現代民主主義政治の問題とよく似た光景。その少数派の必死さと、大多数の無関心さ。根本的なこの価値認識のギャップを埋めるのは正直難しいよなぁと。一体「どこまで」「どれくらい」個人情報保護は重要なのか? と聞かれると困ってしまうんですよね。新しい権利は解るけれども、しかし現実に認識がいまいち追い付いていない。

 男は警視庁の任意での事情聴取に対し、ベネッセ側から貸与されたパソコンに顧客情報をダウンロードし、記憶媒体にコピーして持ち出しを繰り返したと供述。同じ名簿業者に売却を続けていたが、同庁の調べに売却先の名簿業者は「ベネッセの顧客情報とは知らなかった」と説明したという。

ベネッセ漏えい:情報持ち出し常習 SE、数百万円で売却 - 毎日新聞

だからこそこんな買う側の愉快な説明がまかり通りことにもなる。
そして今回もまた「企業がもっとしっかり管理すべきだ」「個人個人でもっと気を付けよう」とか毒にも薬にもならないゆるーい結論で纏まってしまうわけですけど。


みなさんはいかがお考えでしょうか?