孝行とは行動ではなく金額

道徳的インセンティブを経済的インセンティブへ。


中国企業が従業員に「親孝行税」 ネットで議論 - BBCニュース
まぁ中国さんちの人口動態も色々と――ある意味では日本以上に大変そうであります。

報道によると、広州に複数店舗を経営する美容院チェーンは、平均月給3000元(約5万7000円)のうち、独身者は10%、既婚者は5%を自動的に引いてそれぞれの親に送金する制度を導入している。
一方で勤続1年の社員には100元、3年以上の社員には300元などの報奨金も払う。また定期的な社員研修では親孝行の精神についても教えるという。
美容チェーンの名前は伏せられているが、広報担当のル・メイエさんは取材に対し、従業員の多くが農村部出身で教育をきちんと受けられなかった若者なので、「従業員の親孝行の気持ちを育て、会社として思いやりの気持ちを保つため」と説明している。

中国企業が従業員に「親孝行税」 ネットで議論 - BBCニュース

ただこれはどう見ても悪手だよねぇと。行動経済における「罰金」をめぐるお話でも有名ですけども、そういうのってしばしば「免罪符」として機能してより悪化するのがよくあるパターンでもあるわけで。「遅刻したら罰金」と定めてしまうと、同時に「罰金を払えば遅刻してもいい」というのと裏表になってしまうんですよね。
まさに今回の事例で言えば、「親孝行の心を養うための徴収」は、「徴収されているのだから親孝行はもう十分」という方向に行く可能性の方が高いんじゃないかと。むしろその強制的徴収が何もしないことの免罪符となるでしょう。皮肉なことに、親孝行しないことへの罪の意識が相殺されることになる。道徳的インセンティブが経済的インセンティブへと変化する。
親孝行とは行動ではなく金額、なんて。


人びとから『公共心』を失わせる最もさえたやりかた - maukitiの日記
以前も書きましたけども、こうした意識を強制的しようとするのはすごく難しいんですよ。強制された公共心というのは、多くの場合でそれは効果がないどころかむしろ元々あったものを破壊するベクトルを持ってしまう。表面上は上手く行っているように見えても、それをやられた側だって当然バカではないので、表向き取り繕うことを学ぶだけで内心ではただただ冷笑するだけ。
もしやるならばいい歳した大人ではなく、子供時代からそうするべきなんですよね。実際、こちらの方はそれなりに効果があるとされているわけで。親孝行もそうですけども、伝統としてある社会的通念はこうした無垢な子供時代から植え込まれるからこそ再生産されていくわけですよ。



それをやっぱりいい大人になってからやっても、表面上は従わせることは出来ても、内心では冷笑主義しか生まないんですよ。世代における教育機会の喪失ってやっぱり社会における大きな問題でもあるわけで。しかしそれでもやらざるを得ない、というほど中国社会の人たちが危機感を抱いていることの証左でもあるのでしょうけど。でもどう見ても、ザ・後の祭り。


まぁ色々と身につまされるお話ではあるかなぁと。
みなさんはいかがお考えでしょうか?