なぜ彼らは『ミロシェビッチ流攻撃術』をとらないのか?

を考えると頭が痛いですよね


昨日書いた日記に関連して。
イスラム国、米と有志連合市民の殺害を呼び掛け 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
トルコに逃れたシリアのクルド避難民、13万人超える 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで生まれる時代を間違えたかのようなはっちゃけっぷりなイスラム国さんちであります。いやぁ自由すぎます。で、そんなあまりにも自由すぎっぷりの結果として半ば『世界の敵』認定されつつある現状なわけで。彼らがこの現代社会で異質なのは、その現代的な石油経営やらネット勧誘という一方で、こうしたあまりにも時代錯誤な残虐さや無謀っぷりが際立っていますよね。
――なぜ彼らはここまで欧米を挑発するのか?
を考えるとやっぱり頭が痛いお話とならざるをえないよなぁと。以下その辺の適当なお話。




そもそも現代国際関係――特に冷戦以後の時代においても、所謂『ならず者国家』な人々の基本戦略というのは「アメリカが動かない程度にまで」やりたいことをやる、というものなわけです。それこそ今に始まったやり方ではありませんが、むしろ平和を愛する私たちだからこそ、その漸進的な危機演出という手法がとても有効なのは否定しようのない事実でしょう。国際社会=欧米の反発度合を見極めつつ、徐々に事態を進め既成事実化する。
特に冷戦以降そのやり方を最初に武力行使として用いた――ついでに言えば最初に失敗した――のがあの一連のユーゴスラビア紛争でのミロシェビッチ大統領だったわけです。まず軽く攻撃を仕掛け、その後に(平和を愛する故に武力介入を躊躇う)欧米の反発度合をチェックしてから、本番となるより大規模な攻撃を仕掛ける。紛争初期にはこのやり方はとても上手くいったのです。欧米――というかアメリカが武力介入をしないラインを見極めてから、敵対勢力を文字通り「村丸ごと」殲滅する。後に批判的に語られるユーゴスラビアでのそうした虐殺を防げなかった「武力介入の遅れ」というのは、単純に欧米の優柔不断さ*1というだけでなく、こうしたミロシェビッチさんの狡猾な戦略があったからなわけです。かくしてそれはその後『ミロシェビッチ流攻撃術』と呼ばれることになった。
これを見事に実践したのが現在のシリアでのアサドさんですよね。その巧みな事態悪化の誘導に、オバマさんはほぼ手玉に取られる形で「レッドライン詐欺」という失態を犯してしまった。あのレッドライン宣言とその後の有耶無耶っぷりが世界中の当局者から批判されたのは、上記のような大前提があるからなのでした。レッドラインを言うだけ言っての取り下げては、無視するよりもずっと筋の悪い事実上の容認を意味してしまって、更なる虐殺を招くだけだろうと。そして実際にその通りになっているのは、まぁ既にシリアで19万人が死んでいるように皆さんご覧の通りであります。守れないことをいう位ならば、初めから言わないほうがずっとマシだった。
私たち日本にとっても見慣れた風景となったのがあの北朝鮮さんちのこれと類似した瀬戸際外交であるし、また最近の中国さんちのやり方でもある。




ともあれ話を戻して。で、そうした『ならず者』たちの基本戦略をまったく意に介していないのが、現在のイスラム国なわけですよね。むしろ初めから危機を煽りまくっている。果たして彼らは一体どういうつもりで概ね最適戦略であるはずのこうしたやり方を無視するのか?

  • 元よりどうでもいいと思っている(何も考えていない)
  • どうせ何もできないと高を括っている(アメリカ=オバマさんを舐めている)
  • むしろ介入されることを望んでいる(文明の衝突コース)

ぱっと思いつくのはこの辺かなぁと。

    • 一番目は先月に日記でも書いた通り、まさにISISがアルカイダからも見放されるレベルというのはそうした点にあるわけで。あのアルカイダですら、上記のような『ミロシェビッチ流攻撃術』というのは念頭にあったわけです。アメリカを主敵としつつも、しかしヨーロッパ側には決定的な介入を招かない程度にテロ攻撃は本格化させないように気を使っていた。ところが彼らはそんなことなど知ったことないと暴れまくったからこそ、悪名高き「アルカイダ以上(以下)」というレッテルを獲得することになった。まぁ不思議ではありませんよね。
    • 二番目は、上記でも書いたここ数年のシリア経過やイラク撤退を見ると、そう考えるのも理解できなくはありませんよね。まさに彼らはシリアでもイラクでも当事者でもあるわけで。文字通り身を持って「結局アメリカ=オバマは何もしない」ことを知っている。もっと言えば、シリアでのアサド政権の暴虐を無視しておきながら、イスラム国のそれだけを殊更に糾弾するのは、まぁ二重基準だろうと言われたら少なくとも一面ではその主張に頷くしかない。
    • そして三番目といえば最も頭の痛いパターンでしょう。そもそも中東地域にはまぁ反米感情というのは決定的に根強いわけで。それは従来の現地政治家たちがそう煽ってきた面もあるし、最初期の植民地時代からパレスチナイラク戦争まで実際にそうなるのも当然な歴史的事実もある。「欧米文明こそイスラム苦境の諸悪の根源である」というのは、実際にはそこまで正確な論理ではないものの、しかしとても人びとを惹きつける魅力的な嘘となっている。そこへ欧米が現実に介入するとなれば、少なくとも短期的には彼らが益々勢いづくことになるのは、まぁ確実でしょう。まさに彼ら自身がある面で望んでいる通りに「宗教実践を邪魔する欧米文明」という文明の衝突な構図が完成することになるから。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:もっと言えば、当時はソ連崩壊真っ最中だったし中東も湾岸戦争前後で忙しくて、ユーゴスラビアの優先順位が低かったという点もあるんですけど。