「小さな失敗」を認めることの利点

現代中国が直面する難題。


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現代中国さんちについての面白い評論。

 中国が経済的に大きく伸びていることは事実だが、それは主に「量的拡大」という意味合いが強く、「成長」というよりは「膨張」が実態に近い。この「膨張」を続けるスピードに、社会を支える「人」の成長(「成熟」といってもいい)が追いつかないのが現在の中国社会における最大の課題である。その「人」の成長を妨げている大きな要因が、国家によるこの「なんでも管理」の発想にほかならない。
 そのことを政府が知らないわけではない。役人をしている友人と話すと、「それはわかっているが、いったんこの社会が混乱したら何が起きるかわからない。その責任は誰が取るのか」という話になる。その発想もわからないではない。ただこの悪循環を断ち切らないと、この社会はいずれどこかで支えきれなくなる。
 しかし現実には、ここまで述べてきたように、政府による管理は強まるばかりである。特に知的レベルの高い、自立した思考力を持つ人材にとっては、ますます息苦しい社会になりつつある。「なんとかしようと努力してきたけど、この網から抜け出すには国を出るしか方法がない」。そう考える人が私の周囲でも増えてきている。状況はかなり深刻だと思う。

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特にまぁこれは典型的な事なかれ主義ですよね。こうした組織構造の問題って私たちも決して無縁ではなくて、何かあった時の責任をとれない、あるいは問題を指摘することそのものが責任問題になりかねない故に、しばしば(解っているけど)多くの人が小さな失敗を素直に認めることができずに問題を放置しては結果的に大難題となってしまう。


それこそこうした「統制がまた新たな統制を呼ぶ連鎖」という失敗の極北が、あの人類史に残るレベルの大失策である『大躍進』の失敗でもあったわけですよね。数千万人が餓死したという一体どうやればそんな次元の失敗ができるんだというレベル。政府による強力な統制下にあった当時は、もちろん毛沢東のやり方に瑕疵があったとしても誰も指摘できず、あるいは指摘されたとしても正当な批判を封じ込めるだけの能力があってしまったからこそ、彼らはあそこまで致命的な失敗を犯すことができたわけで。
――そもそも大成功は言うまでもありませんが、それと同じくらい致命的な大失敗だって狙ってやるのは難しいんですよ。自然に誰かがその前にブレーキを掛けようとするから。
自由な意見が許される社会では特にそうでしょう。だって失敗するのも自由であると同時に、それを修正することにもまたハードルは低いわけだから。故に現代のリベラルな自由主義社会であれば概ねどこでも常に(小さな)失敗と修正を延々と繰り返している。まったく学習しないまま度々起こる経済のバブルな構図なんてその典型例ですよね。


ところがこうした自由よりも統制が強力な社会では、そのような安定機構は働かない。小さな失敗を認められない人びとは、それが積み重なっていくことで巨大で破滅的な災厄を呼び起こすことになる。
だからこそ、より自由な意見と行動を持つことが可能なリベラルな民主主義社会はただ権威主義的な社会よりも「長期的には」成功してきたのです。それは欠点であると同時に利点でもあるのです。まさに小さな失敗を繰り返す点で言えば確実に不安定ではあるけれども、しかし致命的な大失敗を犯すことを避けることができてきたから。


1978年から改革開放を経ることで、少なくとも経済面においてはそのような「小さな失敗を認められない」世界からどうにか脱却したはずの中国が再び同じ地平に足を踏み入れつつあるように見える、というのは興味深い変化だよなぁと。
訒小平さんの成功以来、これまで中国共産党の政治的支配を担保してきた(ただの政治的誇張ではない)経済成長の実現。しかし当然の帰結として中国の飛躍的な経済成長は、容易に低い木の果実を得ることができていた時代は終わりつつある。
それが不可能になった時に問題となるのは、こうした「小さな失敗」を政府が認められるかどうかであるわけです。国家そのものが破滅するほどではないけれども、しかし国民が政治権力者に不満に抱くようになるには十分大きな「小さな失敗」について。私たち民主主義社会であれば、そのような不満を民主的選挙ひいては政権交代で緩和させ、また新たなスタートを切ることを可能にしているわけで。
ところが現代中国にそんなシステムはない。だからこそ「経済成長が止まると中国ヤバイ」と耳タコなレベルの定説として一般に言われているわけですよね。


残された時間と選択肢はそう多くなく、ある意味で伝統的で馴染み深いからこそ、現代中国はかつてあったようなような統制社会に逆戻りしやすい。でもやっぱりそうした社会こそが、ああした20世紀の中国の暗黒時代を形成したのは間違いない事実でもあるわけで。


いやぁ果たしてこれから一体どうするつもりなんでしょうね?
がんばれ中国。