風雲!シリア領

国家支配が融解した後に生まれる、面子と既成事実が支配する自然状態の常態。



ロシア機撃墜、「国籍不明だった」 トルコ軍が声明 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
そういえばロシア機撃墜で大騒ぎだそうで。これでロシアさんちなんかは民間だけでなく軍用機まで撃墜で、まさに踏んだり蹴ったりだよねぇと。代理戦争だったはずがまさかのニアミス(ニアじゃない)。事実上の国家不在となっているシリア領での自然状態における、「シリア後」をめぐる身も蓋もないパワーゲームな一端で、他人事としては面白いですよね。

【11月26日 AFP】トルコ軍は25日、シリア国境付近で撃墜した軍用機がロシア軍所属とは知らなかったと主張し、ロシア軍当局と「あらゆる種類の協力」をする用意があると表明した。ロシア側は、事件を「計画的な挑発」と非難している。

 救出されたロシア機の操縦士は、トルコ側から警告は一切なかったと述べている。一方、トルコ軍が公開した通信記録の音声では、「こちらは警戒中のトルコ空軍。あなた方はトルコ領空に近づいている。直ちに進路を南へ変更せよ」との英語メッセージが何度か繰り返されている。

ロシア機撃墜、「国籍不明だった」 トルコ軍が声明 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

ということで元々シリア空爆をめぐってお互いにギリギリの所で神経戦をやっていて、見事にタイミング(良く)悪くやり過ぎた、というのが正解ではないかなぁと。もちろん不運な偶然ではあるものの、空爆の主導権(=縄張りを主張)を握ろうと「おいどけや」「うるせーお前が避けろや」と道のど真ん中でガンつけ合ってたらほんとに手が出ちゃった感じ。
この辺、ロシア空爆参戦からいち早く相互連絡体制を構築しようとしていたアメリカさんちなんかは、やっぱりそんなチンピラレベルの争いにさすが手慣れているなぁと逆に感心してしまうお話ではありますよね。まさにこうした事態を避けるための緊急連絡網でもあったわけだから。あるいはフランスなんかのように建前だけで、本気でシリアをどうこうしようと思っていなければよかったのにね。


――しかし、トルコとロシアはお互いに彼らなりの理由があって、まさに本気でシリア介入について考えている故にギリギリの一線で譲ることができず、見事に衝突した。


見事にライバルに「先に手を出させた」ロシアさんはこの優位を使って更にシリア空爆での主導権=優先権を握ろうとするでしょう。実際にテロ被害国であるロシアにはそれをするだけの能力と意思が一応ある。この辺各種プレイヤーの属性が様々で面白いんですよね。フランスをはじめとするヨーロッパ各国には意思も能力もないし、アメリカには能力こそあるものの意思はない。
ここで問題はロシアと同じく意思と(ギリギリながらも)能力があるトルコが、どこまで突っ張るか。
CNN.co.jp : トルコ大統領、ロシアへの謝罪を拒否 戦闘機の撃墜問題で CNN EXCLUSIVE
露大統領、トルコから「まだ謝罪がない」 露軍機撃墜 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
あんまりその気なさそう。こうなると旧シリア領を間に泥沼の代理戦争が展開されていきそうですよねぇ。敵の敵は味方じゃなかった。


元々トルコ――というよりエルドアンさんは広義の意味での「中東地域の指導国」というポジションを狙ってきたわけですよ。実際2010年に起きたイスラエルによるトルコ籍のガザ支援船の攻撃なんかでも、それに反発する強硬な態度は中東アラブ世界から喝采されていたわけで*1。まさにトルコこそがオスマンの後継であるのだと自負してきた。
そしてアサド後のシリアでの影響力を確保する為に、基本的には反政府側の聖域をトルコ国内に提供し続けてきた。欧米と違って、そんな本気なトルコさんちだからこそ、こうして同じく本気なロシアとシリア領で衝突するのはまぁ理解できるお話だなぁと。


ヨーロッパはとっくに放棄し、今ではアメリカさえも手を引きつつある中東地域の、将来生まれるだろう新秩序の行方について。
ロシアとトルコの争い。オスマンとロシアの間にある戦争の歴史を考えたらまぁ300年以上続く日常風景が復活しただけ、ということはできるかもしれませんね。国際関係のパワーゲームとしてはやっぱり面白いお話かなぁと思います。


がんばれシリア周辺国の人たち。

*1:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151126-00010000-storyfulv-intで、それが今度はほとんど同じ構図でロシアに支援車両が攻撃されるっていうね。