政治不信・政治家不信という瓦礫の中から生まれたトランプ旋風

トランプさんの暴言がもたらす二つの印象操作


トランプ氏に追い風「国民は私の発言を好む」 : 国際 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
トランプは、ヨーロッパを不安にさせる「醜いアメリカ人」 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということでトランプさんの面白発言はまだ続いているそうで。
ここで面白いのは共和党の予備選において、単純に暴言の中身そのものが(一部奇特な)有権者にウケているというだけではないところに、この愉快な暴言がもたらす効用があるのだろうなぁと。彼のような「言いたいことを何でも言う」ことの利点というのは、別にそれが真実であるかどうかが問題ではないんですよ。
トランプさんの放言が容認される理由? - maukitiの日記
先日もトランプさんネタで書いたお話ではありますが、むしろそうした『本音』を吐露することのポーズによって彼は「正直者」という評判を得ることができる点に、その行為によるメリットがあるのです。「自分は正直者」という印象と、「なのに周りの候補者はお馴染みの政治家らしいウソ吐きだ」という印象を。


暴言は彼が正直者であることを証明している、ことになっている。
――ここで重要なのは、もちろんアメリカだけでなく本邦やヨーロッパにもあるように、現代社会となっている「政治不信」が常態として強く定着している米国政治に対し、政治不信を持つ人たちの積もり積もった不満から求められているのが多かれ少なかれそうした資質でもあるわけですよ。政治不信とはつまるところ政治家不信でもある故に。
「政治家は口先ばっかり上手くて、選挙の時なんて特に都合のいいことしか言わない」
これは本邦にも通じる政治不信・政治家不信の一端でもあるでしょう。だからこそ、政治的という意味でも、修辞という意味でも、そして人物という意味でも、クリーンさというよりは率直な「ウソをつかない誠実な政治家」が待望されることになる。


ここで既存政治家とは違う「正直者(少なくともそのように見える)」政治家が劇的に登場すると、元々現状の政治に不信を抱いていた人たちほどそんな『正直さ』に魅せられてしまう。
多少バカなことを言っても、むしろだからこそ、いかにも現代政治家風な擦れた人物ではないことが強調されることになる。


かくして現在のトランプさんは、「政治的正しさの権化」である現大統領オバマさんに対するこれ以上ないほどのカウンターとしての評価を集めることになっている。トランプ旋風を生んでいるのって、結局そういうことだと思うんですよね。
まぁ共和党支持者をバカにすれば話は簡単ですけども、しかしその背景ってそこまで単純じゃないよねぇと。実際にオバマさんと言えば――前米国大統領だった子ブッシュさんとの対比もあって――まさにスマートで口が上手いザ・ポリティカルコレクトネスな米国大統領なわけで。いや、むしろ歴代大統領においてすら、最もそんな大統領だとすら言えるかもしれない。
自制心があり、口先ばっかり上手くて、慎重で当たり障りのないことしか言わず、決して本音で喋らない(ように見える)正統的政治家へのメタゲームとしてトランプさんは支持を集めている。むしろオバマさん時代だからこそ、その戦略は輝くことになる。


ここで面白くまた不毛であるのは、共和党予備選でトランプさんがそのように振る舞えば振る舞うほど、むしろトランプさんに対抗しようとする他の候補者たちは「オバマさん」のように振る舞うか、あるいはトランプさんのようにならざるを得なくなっていくわけですよ。
何故なら彼の正直者アピールは、ほとんどそのまま既存政治家的振る舞いをする共和党候補者への圧力にもなるから。トランプは正直に喋っているのに、他の候補者はおためごかししか言わない、なんて。




ともあれ、しかしこれでトランプさんが米国大統領になれるかというと、やっぱりそうではないでしょう。何故ならオバマ政権に絶望した共和党員のような人たちは、アメリカ全体で見ればまだ既存政治に深く絶望した人が多数派ではないから。
おそらくヒラリーさんとトランプさんだったらさすがにヒラリーさんが勝つでしょう。
経済成長するほど普通の国民が貧乏になる米国 世界で初めて中流層が消えてなくなる先進国に | JBpress(日本ビジネスプレス)
しかしあちらの格差問題等を考えれば、次の民主党政権で「救われなかった」と感じる人は、今後更に増える可能性が高い。実際にその傾向の前段階にあるのは、最早どんな政治家たちにも大して期待しないという無投票層でもあるわけで。
そして最早民主党も我々を救ってはくれない、と絶望した時にやってくるのは、再び、トランプさんのような過激な暴言を駆使することで既存政治家へのメタゲームをしようとするポピュリストな政治家となるでしょう。


既存政治家へのカウンターとして生まれる、過激な発言を駆使するポピュリストたちの時代。
――皮肉にもそれはまさに民主主義の名の下にそれは支持されることになる。


フランスは既にその構図に足を踏み入れているし、それってやっぱり日本でも絶対に他人事ではないんですけど。
みなさんはいかがお考えでしょうか?