伝統あるユニテラリズムの再生

伝統(242年)



伝統ある「ならず者国家を誅罰」の再生 - maukitiの日記
前回日記の続き的なお話。むしろこっちが本題。

翻って、今のトランプさんの対応を見ると、ほとんどそのままでなるほどなぁという気持ちにはなりますよね。オバマ時代こそが例外で、むしろようやく冷戦後に考えられていた外交政策に帰ってきたとすらいえるかもしれない。

実際、上記ラムズフェルド委員会は共和党だけでなく民主党も含めた超党派による結論で、であればこそクリントン政権時代に弾道ミサイルに対抗するためのNMDが進むことになった。何故なら核兵器・ミサイル拡散の阻止こそが、党派を問わないアメリカの安全保障に関わる重要な問題であるから。

伝統ある「ならず者国家を誅罰」の再生 - maukitiの日記

オバマ政権という例外から、既存のならず者国家誅罰へと戻ってきたトランプ政権というお話を書きましたけども、それを言うと所謂ユニテラリズムな単独主義外交に戻ってきたのがトランプ政権だとも言えるんですよね。
他国との協調ではなく自国の都合こそ優先させる一方的外交。それも2001年の子ブッシュ政権こそが始めたというのが一般的な非難でもありますけども、しかし実際には1990年代のクリントン政権時代から既に始まっていたというのが専門家の見方でもあるわけですよ。子ブッシュ政権はあくまでその流れを(加速させたという言い方はできても)『継承』したに過ぎない。

  • 97年の地雷禁止条約の調印拒否。
  • 98年の国際刑事裁判所の参加拒否*1京都議定書への議会提出の諦め。
  • 99年の包括的核実験禁止条約の批准拒否。

もちろんこうした一方的外交は、単にクリントン政権の態度というだけでなく議会で優勢だった共和党の意向があるのも間違いない。しかし上記軍事条約などでクリントン政権ペンタゴンの意向を汲んで反対したこともまた事実でもあります。


ここで面白いのは、多国間協力関係への冷淡な態度としてむしろ先行していたのはペンタゴンアメリカ軍部の方だった、という点でしょう。後にアフガニスタンイラク戦争での不和として表面化することになるお話でもありますが、一連のコソボ戦争でNATOの官僚的対応に苦労した米軍は既に同盟国との共同作戦に否定的なポジションを採るようになっていく。それはアメリカとヨーロッパの軍事力行使に関する思想の相違であり、そしてそもそも圧倒的な軍事力格差による必然の帰結でもあります。
違うことを考えている上に、明らかにレベル差がついてしまった同盟国と協力しても我々に得るものは少ない*2
まぁ正論ではありますよね。少なくとも『9・11』以後の当初は子ブッシュ政権内の高官たちですら、世界的な対テロの国際的包囲網を見ていたことを考えると、面白い構図でしょう。そして子ブッシュ政権も、やがて「アメリカに合わせない」ヨーロッパとはそもそも協力する必要がないと開き直るようになっていく。



つまり、トランプさんが今見せているような、多国間条約や協定を嫌う『ユニテラリズム』ってアメリカという国家にとって最近生まれたのではなく、冷戦以後ずっと続いているトレンドでもあるんですよね。もっと言うとモンローな建国以来続く(こちらは冷戦期を例外とした)国是ですらあるかもしれない。
これまで共和党の主流派が(特に対中などで)遠慮していた経済面にまでそれが及んでいる点は新しいと言うことはできるものの、しかし政治的・軍事的に見れば急に始まった変節というわけでは絶対にない。
だからこそ、少なくない国際関係の専門家たちは冷戦以後に見せ始めたアメリカの単独主義傾向を不安視しそれを是正しようと提言してきたし、アメリカが『G1』でなくなる唯一超大国以後の世界は(このままでは)文字通りカオスな世界となるだろうと多極化世界への将来の不安を述べていた。


かなり昔にウナギ絶滅についての日記で「国際条約が力を持たなくなる時代」というお話を少し書きましたけども、やっぱりオバマさんこそが流れに僅かに抵抗した――だからこそ更に彼は偉大であるという見方もできないことはない――だけであって、しかし大きな流れは変えられなかったんだなぁと。
クリントン政権時代から続く、アメリカのユニテラリズムの流れは変えられなかった。

 オバマ氏は8日、核合意からの離脱を批判した。だが同氏が核合意に対する国内の支持を集められなかったことが、トランプ氏の決定を容易にさせたとも言える。オバマ氏は法的拘束力を持つ条約として上院に承認を求めなかった。トランプ氏がほごにしたのはオバマ氏がイランと個人的に結んだ約束であり、米国としての義務ではない。

【社説】オバマ氏のイラン核合意、その始末 - WSJ

有名なお話ではありますが、トランプさんが批判しついには離脱したイランとの核合意ですら、オバマさんは大統領個人としては約束してもしかし「国家として」何かを合意したわけないんですよね。であるからこそ、簡単に次のトランプさんにひっくり返されてしまった。
このお話って、結局はアメリカを変えられなかったオバマさんの帰結そのものではないか、なんて。


これまで私たちが生きてきた時代よりもずっと国際条約や協定が軽視される時代になるかもしれない。なにせ世界一の大国であるアメリカがその気が薄いのだから。それ以外の国たちがどれだけ合意しても、アメリカが無視すればどうなるかは今私たち見ている世界そのものでもあります。
でもまぁそんなのは北の核兵器開発や南シナ海での中国の振る舞いを、文字通り間近に見ていた日本人からすると今更すぎるお話ではありますよね。


国際条約? なにそれ守ると何かおいしいの?


アメリカを変えられなかったオバマさんと、これまで通りのアメリカとして突き進むトランプさん。もしかしたら次の米国大統領ではワンチャンあるかもしれない。オバマさんの時にも「チェンジ!」を期待されていたそれは、結局は議会を説得できずに上記のようなオチだったんですけど。化学兵器使用も華麗にスルーしていたシリアでの対応を見るとオバマさんにもその素質はあったかもしれない。


まぁアメリカという国家の宿業だから仕方ないね。元の道に帰ってきただけなのだ。いやぁ益々「狂犬」たるアメリカの敵にならない為の同盟強化が必要だね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:政権を去るギリギリで署名し参加の「ポーズ」は見せた。

*2:これってほとんどそのままネオコンのケーガンの主張でもある。