『衰退論』に対する民主主義的解答のひとつ

衰退しているからね、(多少なりふり構わなくても)仕方ないよね。


トランプ米大統領、「新しいアメリカの時」主張 一般教書演説 - BBCニュース
そういえばトランプ政権爆誕から一年だったそうで。

米国経済は約10年前の大不況から回復を続けており、トランプ氏の就任以来、ダウ平均株価は約33%上昇し、失業率は17年ぶりの低レベルに下がっている。株価上昇や失業率減少をトランプ氏は政権の成果として強調するが、政権の手柄だという評価が不十分だと大統領はしばしば不満をあらわにしている。

トランプ米大統領、「新しいアメリカの時」主張 一般教書演説 - BBCニュース

そもそもトランプ旋風の生みの親の一人となったであろう『アメリカ衰退論』に対する正しいオチ、という感じではあるかなぁと。衰退しているなら偉大なるアメリカを、多少無茶な方法でも取り戻せばいいじゃない。
Make America Great Again!


私たちも知っているように「自国衰退論」は未来予測ではなく、しばしば、右派左派問わない党派対立の一形態でしかない。ただ相手が失政していると非難するよりも「国を衰退させている!」という方がより強いインパクトがあるものね。
ただ問題はそれを下手に強く持ち出し過ぎると、まさに上記トランプさんのような政治家が出てくる可能性が高い、という懸念はずっと――例えば国際貿易論の大家であるジャグディシュ・バグワディ先生*1とか――言われているお話なんですよね。
国家が衰退している=致命的問題であるならばと、(短期的・独善的手法で)とりあえず回復させることを最優先することへの政治的ハードルはかなり低くなる。
問題が大きければ緊急的手段も許容される。だから衰退論を言うことは、副作用として多少なりとも民主主義的プロセスを無視することのインセンティブにもなる。もちろん常にその結果を出力するわけではないものの、しかしその可能性があることは念頭に置いておくべきでしょう。
「(衰退しているのだから)それをやってアメリカに何の得があるんだ?」
「(衰退しているのだから)アメリカ最優先でいこう!」
からしばしばリベラルな人たちから反トランプな物言いとして言われる現在進行形の『衰退論』でもある「トランプがアメリカを衰退させる!」というのは微妙にズレていると思うんですよね。それって因果が逆じゃないかと。むしろ衰退している(という認識が一般化してしまった)からこそ、彼のような政治家が選挙で勝つ土壌が生まれるようになったのだから。



といってもこうした空気は何も現在のトランプさんの時代から言われるようになったわけではなく、(おそらくアメリカの相対的国力としては絶頂期にあったはずの)クリントンさんの選挙時代から既に使われ一般化していった手法でもあります。
衰退論は、(自分に都合のいい)救世主待望論と表裏一体でもある。
政敵への批判として濫用してきたアメリカ衰退論の行き着く果てがトランプだった、というのは悲劇なのか喜劇なのか。もちろん一部のアメリカ人たちにとっては悲劇であるのは間違いないモノの、一方で散々「アメリカ衰退」を言ってきたはずのヨーロッパなんかが、そんなトランプさんの手によるアメリカの外交政策転換に文句を言うのは愉快な光景だよね。



ちなみに、この辺はアメリカのそれと同じくらい言われる「日本衰退論」も同じ構図なんですよね。長期政権となった安倍さんの第二次政権の辺りから使われた「日本を取り戻す!」も、まず「衰退している今」という現状認識の前提が共有されていなければならないわけで。衰退論が一般化すればするほど、「ならば取り戻そう」という声を有権者たちが受け入れやすい下地ができていく。


民主主義政治における『衰退論』濫用のオチについて。トランプ政権の誕生から一年を経て、改めてアメリカは見事にその解答を見せてくれているよなぁと個人的には思います。
それはトランプが舞い降りるのだ、なんて。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:同様に「衰退論が過ぎれば、その後にやってくるのは保護主義である」という現状に対するすばらしい慧眼もあったりする。