表現の自由論争において『歴史の正しい側』に立つのはどちらだ

まぁ正しい側が勝つとは限らないんですけど。



トランプ氏、SNS各社の右派「差別」を批判 検閲を否定 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
トランプさんの面白いお話について。

 同氏は、検閲は「とても危険なもので、絶対に抑制できない」と指摘。「フェイク(偽)ニュースを根絶するというなら、CNNやMSNBCほどフェイクなものはない。それでも私は、彼らの病んだ行動を排除することは求めない」と表明した。

 その上で同氏は「良かろうが悪かろうがすべての人を参加させ、私たち皆が自分で判断するしかない!」と指摘した。

トランプ氏、SNS各社の右派「差別」を批判 検閲を否定 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

表現の自由』信奉者である僕としては「ザ・正論」という感じではありますが、良くも悪くも世界のトレンドとしては真逆ですよね。そんな世界情勢とは一線を画したトランプさんに諸手を挙げて賛成すればいいのか悩みどころではあります。主に右派が検閲されている構図からポジショントーク感はあるし、いつもの逆張りなトランプ流っぽさでもある。
こちらも同様にいつものトランプ戦術ではありますが、ここで面白いのは、現在すでにヘイトスピーチや(大手メディアが指摘するという意味での)フェイクニュースを規制したがっている「彼ら」に対して、表現の自由保護を唱えているトランプさんという構図を狙っている所だよね。皮肉にもアメリカにおいては本邦以上に重要な価値観であろう『自由』の守護者として演出することに成功している。



出来る限り『表現の自由』は守られるべきであって、都合の悪い情報でも拡散されるべきである。

Twitterのジャック・ドーシーCEOは、CNNのインタビューに応じ、Twitterフェイクニュース撲滅に取り組まない理由は「それが見つけられなかったからだ」と答えました。米国の主要なSNSその他サービスは最近、著名な陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏の発する情報の一部がフェイクニュースに該当するとして、アカウントを凍結したり、アップルはPodcastを削除するといった対応を取りました。しかし、Twitterだけはジョーンズ氏のアカウントをそのままにしています。

Twitter CEO、フェイクニュース排除に消極的な理由を語る。「Twitterが真実の裁定人になるのは危険」 - Engadget 日本版

成長を続ける中国市場に引き寄せられるテック企業は多い。アップルの「iPhone」は同国でも高い人気を誇り、同社の直近3カ月の売上高550億ドルの2割近くを中国での販売が占める。LinkedInは2014年に中国に進出した際、検閲を受け入れることに同意した。フェイスブックも7月末、中国に子会社を設立したと報じられている。

グーグルの中国再進出と、「検閲」にまつわるこれだけの課題|WIRED.jp

――という価値観は現代世界において、中国やロシアのような強権国家だけでなくアメリカやヨーロッパや日本を見ても、まったく主流ではない。
でも仕方ないよね。私たちの素晴らしき現代世界においてはヘイトスピーチは許されないもん! 政権批判は許されないもん! twitterヘイトスピーチを容認している!
まったく面白いことに、リベラルな民主主義を信じる私たちと、独裁政治こそ効率的であると信じる彼らはこの点で手を結んでいる。結果としてトランプさんはそれにNOを突き付けている現状。もちろんそれが善意や正義感からというわけでは絶対にないでしょうけど。それこそトランプさんにとっては、政権と敵対し(仮にそれが極少数の例外であっても)誤報フェイクニュースを流してくれる方が政争としては都合がいいわけだし。敵と味方を分断することで支持率を高めるのは人間社会の世の常でもあるから。
ここでそうした現実を理解したうえで「敢えて」検閲否定を言うトランプさん。いやあさすがの勝負勘というか嗅覚だと感心してしまいます。



ちなみにこうした構図においてメディアが悪者でただネガティブな影響だけしかないかと言うとやっぱりそうでもないんですよね。
トランプさんが『自由』を煽ると言うことは、バカなことを言う人たちの増加であり、そのまま彼らの『自由の規制』という大義名分の正当性が強まることを意味している。
ついでにいうと、トランプ政権に都合が悪いことを報道するということは、当然ながらメディアの真の役割を果たすことにも繋がるんですよね。何故これが重要かというと、オバマ政権時代には、スノーデンやマニングの政府機密暴露の一連報道のように、むしろ米メディアは政府が本当に嫌がることは報道したがらないという構図が明らかになったわけですよ。本邦でも「御用新聞」が言われたりしますけど、アメリカでも政府が望むことを報道し、望まないことは自主規制するメディアが問題となっていた。
トランプ支持者のような人たちが大手メディア忌避に走った理由の一つでもありますが、オバマ政権とは政府によるメディア支配がとても強かった時代でもあった。


ところがぎっちょん、米メディアもまったく予想できていなかったトランプ政権爆誕で、政権監視に熱心に取り組む報道機関というメディアの役割を取り戻しつつある。更にはトランプ批判をすることで連日紙面を賑わすことだってできる。まぁ政争や選挙報道で売り上げを伸ばすのは民主国家でのメディアあるあるではありますけど。


こうして見るとトランプさんと米メディアの壮大なプロレスが見えたりしますよね。まぁそこまで行くとさすがに陰謀論が過ぎますが(意図はともかく)共存共栄しているということなのでしょう。
トランプさんとしては先走ったメディアが自由に(杜撰に)トランプ政権批判をすればするほどフェイクニュースとやり返せる材料が増えるし、逆にメディアとしては自由を旗頭にバカなことを言う人が増えれば増えるほど彼らの右派抑圧の正当性が高まることになる。


いやあwinwinな関係だよね。メディアと民主主義の、長期的な自殺だろうとか言うと身も蓋もありませんけど。でもこうした構図こそ現代民主主義政治の最前線でもあるので、やっぱり他人事だと笑っているだけではいられない。
みなさんはいかがお考えでしょうか?