「広く浅く静かに搾取せよ」の政治的限界

フランス、マクロン、経済格差、燃料税。何も起きないはずがなく……。



「エリートが地球の終わりを語る時、僕たちは月末に苦しんでいる」仏・黄色ベストは何に怒っているのか(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース
ピケティ解説「黄色いベスト」:ルモンド紙2018年12月8日朝刊 : おしゃべりな毎日
マクロン大統領を引きずりおろしてもフランスが進む道は変わらない
前回に続いてフランス暴動ネタ。色々と現代世界のクリティカルなお話だから盛り上がってしまうのは仕方ないよね。。

一番哀しいのは、環境問題に恐るべき損失を与えたことだ。燃料税が成功するためには、環境移行で生ずる損害の補填に、徴収した総額を当てなければならない。しかし政府はその正反対のことを行った。2018年の燃料税の40億ユーロ増収分、そして2019年に見込まれる同額の増収分のうち、政府は10%しか損失補填に当てず、残りは富裕税廃止による減収補填と、資本利益のフラット・タックス導入による補填に使われる。任期を満了したければ、マクロンは富裕税を即時に復活させなければならない。そして燃料税で一番苦しむ人々の救済に富裕税の徴収分を宛てなければならない。それをしないならば、金持ち優遇という時代遅れのイデオロギーを選択し、温暖化対策に背を向けたことを意味する。

ピケティ解説「黄色いベスト」:ルモンド紙2018年12月8日朝刊 : おしゃべりな毎日

基本的には、燃料税それ自体の云々というよりは、現代フランスを支える『税制』そのものの矛盾の噴出という構図なのでしょうね。
そして、それは何も先進国においてフランスだけが――いやまぁフランスが特にヒドいというのは否めないんですけど――抱える問題というわけでは絶対にない。上記ピケティ先生のコラムでも言っているように、まぁ先進国どこでも進んできた「税の累進制崩壊」現象の一幕であると。広がる経済格差の原因なのか結果なのかは諸説ありそうですけど。


ともあれ、オランドさんの時もサルコジさんの時からも税制改革の必要性は言われ続けてきたわけで。だから今回の燃料税増税も、実効性は薄くとも「時間稼ぎ」「財源確保の為に何かやっているアピール」にはなるんですよ。これまで通りならそうなるはずだった。そうした政治的アピールなら前任者たちもやってきたし、概ね先延ばしに成功したきたのだし。前任者の二人がああして失敗(というよりは放置)したのだから、マクロンさんの失態だけを責めるのはフェアではないよね。
マクロンさんも燃料税を使ってそうしたアピール&先延ばしを、かるーいきもちでやってみただけ。
ところが庶民のガマンできるラインなんてのはもうギリギリだっただけ。
だから今回の件でのマクロンさんの罪って作為不作為が云々というよりは、ただただ時流を読めていないだけ――それこそ政治家として致命的だろうとか言わない。



かくして抜本的な税制改革が長年求められてきたフランス。しかし「抜本的」であればこそ高い政治的ハードルの為に先延ばしにし続けてきたフランス。
そんな大改革に必要とされるだろう左右問わない超党派のコンセンサスというのは、その響きこそ美しいものの、結局のところそのほとんどは「何もしない」という結論にしかならないんですよね。だってそんなのまず実現不可能だんだから。政治分断が進むこの世界において全政党が手を取り合うなんてことあるの? まぁやっぱりフランスにとどまらず先進国たちも他人事ではないよね。
かくして、根本的改革には程遠いにもかかわらず、より政治的ハードルとして上げやすい『燃料税』や『消費税』なんかで先送り・誤魔化されることになる。広く浅くコストを負担させる方が反発が少ないのだし。まぁ行動経済学としても基本ですよね。より合理的な方へ進み続けてきた私たちなのだから。私たち日本もであればこそ、あんなバカみたいな軽減税率等の対策をやりながらも、消費税を上げること自体はやめられない。
でもそれにだってその負担を背負う私たちには感情的な限度がある。
そしてその限界とは案外近くにあったのだ。ということを今回の黄色ベストは見事に示してくれた。怒れる市民たち。


マクロン政権になって見事に最後のババを引いてしまったフランス。
しかし現代フランス最大の悲劇は、この騒乱自体じゃないんですよ。この状況になっても尚、上記ピケティ先生なんかが言い続けている税制改革への道程が見えてこない。そしてそれはこの混沌が当分晴れないことを意味している。
経済学者トマ・ピケティのグループが「より公平なヨーロッパ」を目指して予算100兆円規模の税制マニフェストを提案 - GIGAZINE
もちろん学者の人たちはいつだって簡単に(理論的な)解決策を示してくれるけれど、民主主義国家に生きる私たちはそれを掲げて『選挙』で勝てなければ意味がない。そしてそれができる政治家がそもそもいるのかというと……。
やっぱ燃料税や消費税を上げた方がマシだな!
税改革が必要なことは解っているけれど、しかしその為の政治的資源(有権者の支持)がまったく足りない。そして時間稼ぎに走るという事はその政治的資源を浪費するということでもある。
いやあ民主主義政治ってつんでるよね。



フランスの騒乱が証明している「広く浅く静かに搾取せよ」の政治的限界。
しかしほんとうの悲劇は、限界が見えているにもかかわらず、この期に及んでも尚回避策が見当たらないことでもある。地球温暖化や核問題のように、まぁ人類社会が抱える問題ほとんどすべてに共通するだろう構図ではありますよね。


一体誰がフランスを救うのか。ここまで逝ってるフランスですら救われる機運がないということは、つまり私たち日本も……?
あるいは、もしかしたら、いつか来た道のように超絶カリスマな政治家が登場してが何もかもぶっ壊してくれる(意味深)かもしれない。


みなさんはいかがお考えでしょうか?