とある石油国家の典型的落日

ハイパーインフレのおこしかた。


268万%のインフレに 政治的混乱続く南米ベネズエラ | NHKニュース
話題のベネズエラは、いよいよハイパーインフレというレベルに辿りつきつつあるそうで。
べネズエラの「インフレ率1000万%」を人はなぜ信じるのか? フェイクニュースはこうして広まり、定着し、真実となる WEDGE Infinity(ウェッジ)
あれれ~???、フェイクニュースだったはずなのにおかしいぞ~??? 
『ベネズエラの革命』という神話の終わり? - maukitiの日記
先日の日記でも書いたように、でもまぁベネズエラという国は、なぜ一部の人たちとってなぜか現実認識をちょっとばかり歪めてしまうことがあるから仕方ないよね。
クラスで一番色白(革命・反米・社会主義)で美人なベネズエラ君があまりにも魅力的過ぎるからいけないんだぞっ。




世界屈指と謳われた埋蔵量を誇っていた国がインフレ率268万%なご覧の有様になる、というのはよくできた寓話めいていて、資源の乏しい私たち日本人にも色々と刺さるテーマではあるよねえ。

政治的な混乱が続く南米のベネズエラでは、食料品や医薬品が極端に不足して物価が高騰し、ことし1月の物価上昇率は年率で、268万%にまで膨れ上がりました。

南米のベネズエラでは、独裁体制を敷くマドゥーロ大統領と、これに反発して暫定大統領への就任を宣言したグアイド国会議長が対立し、それぞれを支持するロシアとアメリカをはじめ国際社会を巻き込んで混乱が広がっています。

268万%のインフレに 政治的混乱続く南米ベネズエラ | NHKニュース

以前の日記*1で石油について『悪魔の排泄物』と書いたことがありましたけども、まさにこの身も蓋もないネーミングを生み出した人物こそ、まだ民主主義時代だった頃のベネズエラのエネルギー大臣でありOPEC創設者の一人でもあるパブロ・ペレス・アルフォンソさんだったんですよね。
引退後に彼は、期せずして石油資源を手に入れた母国の歩みについて「資源の災厄」がもたらした犠牲者だったと考えていたから。


中でも今回のニュースのように、失敗した石油国家が高いインフレ率に陥る、というのはそれこそ国家経済について公式のように昔から言われる話でもあります。
他にも『石油国家の典型的失敗事例』というのは色々あって、こちらも有名な「オランダ病(通貨高)」や、あるいは石油産業の規模があまりにも大きすぎるとそのレントの奪い合いが最も合理的な経済行動となって誰もがその利権争い(腐敗)に加わってしまったり(経済成長・開発の失敗)、そして今回のベネズエラのニュースにもあるような石油国家に必ず付きまとう財政支出の下方硬直による高インフレであります。
いやまあ、上記失敗事例ってぶっちゃけるとほとんど全部ベネズエラに当てはまるんですけど。そりゃ糞便呼ばわりされちゃうよね。
石油は、国家の経済が歪むだけでなく政治社会へも多大な影響をもたらす。であればこそ石油収入の扱いは慎重に、出来る限り政府とは切り離しておかなければならない。
まぁベネズエラでは、見事にその真逆をやった人が居たんですが。


ともあれ、国家財政を石油に頼ることの何が恐ろしいかって、ただ補助金を出すだけならまだいいんですよ。石油価格が高騰すると「カネがあるならもっと出すべきだ」という社会の声も応じざるをえなくなるだけなら、それもまだギリギリセーフかもしれない。
ほんとうに問題なのは、当然あるだろう(そして私たち輸入国にとっては福音でもある)石油価格下落のターンに陥った時、国民の反発を恐れてその補助金を減らすことが容易でなくなるという点なんですよね。何しろその補助金の存在こそ、しばしば独裁的手法に頼っていた石油国家の社会の不満の声を抑える特効薬なのだから。
所謂『逆ミダス王の手』によって政府の支出は増えるばかりになる。触れるがモノみな収入――ではなく逆に支出となった。
崩壊するヴェネズエラの医療制度、経済危機と政情不安の裏側で - BBCニュース
ついでにその補助金にまみれた産業の効率化は必然的に停滞する。ますます石油依存は進む。いやあ石油ってホントに悪魔の排泄物だよね。




さて、補助金削減とかいうバカげた机上の理論は置いといて、そんな財政の下方硬直を抑制する為に、石油国家が安易に走りがちな選択肢としては二つあるとされています。

  • 自国でお札を刷る
  • 外国からお金を借りる

うーん、どっちもザ・場当たり的。でも仕方ないよね。それしか方法がないんだもん。ベネズエラはもちろん両方やった。
ベネズエラ政府、対外債務の債務整理を通告  :日本経済新聞
対外債務の方がまだダメージは少ないものの、しかしそれだって「貸す側」の我慢の限界があるわけで。
だから彼らはそうした限界がない、自分たちでお金を刷ることにした。刷って刷って刷りまくった。土を掘るだけでカネ(石油)が沸いてくるんだから、ただ紙に印刷するだけでお金が沸き出すのだっておかしくないよね?
……かくして世界で最もカネになるはずの資源が眠っている国は、268万%というインフレに陥っている。
経済史の教科書に載りそうなハイパーインフレがまた一つ生まれたよ。




いやまあ最初に書いたフェイクニュースの人のように、それすら悪のアメリカ帝国のインボーとか言う人も、未だ世間にはちょっといるかもしれませんけど。
そうそう、魅力あるベネズエラ君は何も悪くないんだ。色白(革命・反米・社会主義)は七難隠すって言うもんね。アメリカもはやくその魅力に気づけばいいのにね。


ということで個人的には、、幸か不幸かそうした反米や社会主義や革命幻想にかぶれていないので、ベネズエラについて一番最初に浮かぶイメージはこういうお話かなあと。
「世界で最も失敗した石油国家はどこか?」と聞かれて真っ先に浮かぶ国家。


がんばれクラスで一番美人なベネズエラ