2020年にまた来てください、本当に「民主主義が死ぬ」かもしれない瞬間を見せてあげますよ

選挙で負けた側の『敗北宣言』こそ、民主主義政治成立の瞬間である。


トランプ氏、不正選挙説譲らず 敗北も認めず「考えは変わらない」 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
この四年間あったポピュリストなトランプ大統領時代の混乱に関しては、当日記でも何度か言及してきたように割と「いいぞもっとやれ」とwktkしながら見ていたポジションではあったんですが、コレはさすがに超えてはいけないラインを越えちゃっていて擁護しようがないなあと冷めた気持ちに。
――その意味で言うと、本邦でもこの期に及んでのトランプ応援団がいっぱい見えていて、色々な意味で将来が心配になってげんなりしてしまうお話でもあるんですけど。

トランプ氏が米国の選挙制度の正当性を攻撃するという前代未聞の行動を取っているにもかかわらず、同氏の訴訟チームは法廷での審理に耐える証拠を何一つ提出できておらず、米国各地の裁判所で次々と訴えを棄却されている。

 トランプ氏は、「われわれは証拠を提出しようとしているが、判事たちがそうさせない」 「われわれは頑張っている。非常にたくさんの証拠を持っている」と述べ、「われわれの主張は最高裁で審理されるべきだ。どうにかして最高裁まで行かなければならない。さもなければ、何のための最高裁かということになる」と問いかけた。

 1期のみの大統領としての任期が終わりに近づいているが、トランプ氏は法廷闘争をやめる具体的な時期について「私が日付を言うことはない」と述べ、明らかにすることを拒んだ。

 勝ち目はあるのかと聞かれたトランプ氏は、「勝つことを望んでいる」と答えた。(c)AFP

トランプ氏、不正選挙説譲らず 敗北も認めず「考えは変わらない」 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

選挙制度の正当性はともかくとして、しかしそこから更に敗北を認めないとなるとかなり『民主主義の死』に近づいてしまうんですよねえ。
私たち日本でも、多数の横暴や、説明責任の有無、最近では学術会議問題ですらも、「民主主義が死ぬ!」と天が崩れてしまうのを心配するような愉快な人たちがいっぱい居ましたけども、ぶっちゃけ危険具合で言えばこちらの方がずっとヤバいでしょう。




再び血染めのシャツを振り合うアメリカ人たち - maukitiの日記
先日の日記でもちょっと書きましたけど、選挙結果を受けての敗北宣言というのは、憲法や法律にこそほとんど明記されていませんけども、実は民主主義政治にとってかなり重要な慣例でもあるわけですよ。

たとえば今回見事にトランプがひっくり返した、投票後に「潔く負けを認める」慣例も、ただ自己満足ではなくノーサイドを宣言し対立状況をそれ以上続けることなく終わらせることに一役買っていたわけですよ。
そこで敗北宣言が無くなってしまえば、選挙の正当性を疑ってしまえば、両者の対立は永遠に続くことになってしまう。

再び血染めのシャツを振り合うアメリカ人たち - maukitiの日記

つまるところ、それは今回の権力闘争が「穏当に」終了したことを宣言する意味でもあるから。


古今東西の歴史を見れば嫌でも解るように、新旧の権力移行期というのは社会にとってとても危ういタイミングでもあるわけで。そこではほとんどの場合で大小の暴力が伴い、血が流れない方が珍しい、というレベルですらあります。
それは長期間社会に混乱をもたらすだけでなく、しばしば、次の権力移行期まで続く怨讐まで再生産されていく。


デイヴィッド・ランシマン先生なんかは、民主主義とその選挙制度について「戦闘行為のない内戦である」と指摘していますけども、
つまり選挙結果による決着を放棄してしまえば、これまでの人間社会に当たり前にあった権力闘争=内戦がむき出しになってしまうわけですよ。
意思決定の遅さや長期的政策の難しさなど多くの欠点が指摘される民主主義制度ではありますけども、少なくともこの制度化された穏当な権力移行という点では、暴力を伴う社会の混乱をほぼ回避することができる、という他の政治制度よりもかなり冴えたやり方でもある。




ということで、しばしば誤解されがちではありますけど、選挙結果を通じて民主主義を体現するのって「勝った側」じゃなく、むしろ「負けた側」の振る舞いこそ重要なんですよね。
狭義の民主主義制度論において「民主主義政治が成立している」と述べることができるのは、これまでの権力者が新しい選挙結果である敗北を受け入れる瞬間である。
つまり、選挙結果を受けての、敗北宣言こそが。
それまでの権力者が新しい選挙結果を受け入れ(自主的に)退陣することこそ、民主主義政治の要である。


この辺は、最近でも中東やら東欧やらで選挙結果を受け入れないことで大規模な社会騒乱が起きていたのを見ると、まぁさもありなんという感じですよね。
つまるところ、そうした国々では民主主義は成立していない、と。
アメリカがそのラインに近づいてしまうなんてなあ。
――まぁ一方で、今回のアメリカの混乱を見ると、私たちがこれまでの日本政治で見てきた自民党政権の退陣の時も、あるいは旧民主党政権の退陣の時も、やっぱり日本の政治の方がずっと民主主義政治がうまく機能していると相対評価はできてしまうんですよね。日本ってSUGOI!


民主主義政治の根幹でもある『敗北宣言』について。


世界が平和でありますように。