「われわれもいつか誰かにワクチンを後回しにされるかもしれない、という事を決して忘れないようにしなければならない」

今ふたたび、国際機関や枠組みが肝心な時に無力である事を見せつけられている私たち。


WHO 公平分配でワクチン接種開始も 世界の感染者増加を懸念 | 新型コロナ ワクチン(世界) | NHKニュース
世界コロナ感染者7週ぶり増加、年内の終息「非現実的」=WHO | ロイター
ということで、テドロスの嘆き、であります。

WHOのテドロス事務局長は1日の定例の記者会見で、経済的に豊かでない国でも公平なワクチンの分配を目指す「COVAXファシリティ」のもと西アフリカのガーナとコートジボワールでワクチンの接種が始まり、5月末までに142の国と地域に2億3700万回分を分配するという見通しを示しました。

一方で、テドロス事務局長は「いくつかの国は、ほかの国の医療従事者や高齢者よりも先に、リスクの低い自国のより若く健康な人たちに接種を続けていて遺憾だ」と述べ、依然、格差は大きいとして供給が遅れている国にもワクチンが回るよう各国に協力を求めました。

うーん、まぁ、そうねえ。まったく正論だとは思いますけども、そもそもそれをどうにかするのが君たちの仕事だったんじゃないのかというマジレスが頭に浮かんでしまうのは避けられないかなあ。
しかしWHOの組織存続の為には仕方ないよね。自分ができることの逸脱をしないように、ただただ懸念し遺憾であるということしか言えない人たち。
どこかの某国もよく使う見慣れた言葉でもあって、しばしば何も考えていないと批判されがちではありますが、むしろひたすら限界まで関係各所に配慮した慎重さと熟慮の帰結でもあるわけでしょう。
むしろ危険であることを承知しているからこそ、下手に前にも後ろにも進めずに、曖昧で空虚な言葉を並べることしかできない。
テドロスさんの今回の記者会見も、無能さではなくひたすら慎重に「現状維持」に努めていることの極致でしかない。


フェイクニュースオルタナティブファクトな21世紀の現代世界にありがちなように、トランプを筆頭にWHOとテドロスが「中国に支配されている」なんて陰謀論的言説が流行ったりしましたけども、それはちょっと違うと思うんですよね。
――彼ら彼女らはひたすら慎重に、国際関係の微妙なパワーバランスの上で舵取りされている(国連)国際機関を、どうにか維持存続させようと動いていただけ。
そんな身動き取れない綱渡りな状況を、実質何もしていない、と言ってしまうと身も蓋もないんですけど。
でもまぁ概ねその通りでもある。



がら空きのコロナ予防接種センター、貴重なワクチンは余って山積み──イギリスに負けたEUの失敗 | 木村正人 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
かくして先進国である我々がワクチンを買い込むだけでなく、盛大に無駄にしている現状においても尚、その「世界での公平な分配」の陣頭指揮を執るべきWHOのトップは「遺憾である」ということしかできない現状について。
「国際社会が黙ってないぜ!」の顛末 2020Remix - maukitiの日記
これはカスス・ベリですか? - maukitiの日記
シリアやクリミアやナゴルノカラバフのような、国家安全保障にかかわる領土問題や国家間紛争だけでなく、ワクチン配布問題でも国際社会や国際条約の限界がこうして明らかになってしまいつつある現状について。
「国際社会が黙ってないぞ!」と批判していた人たちの言葉は、確かに我々が自国第一主義的にワクチンを買い占めてみても正しかったという他ないよね。
公平な分配に事実上失敗し、そしてそれを招いた我々先進国に何か態度を改めさせることもできないWHO。
文字通り、黙ってないだけ、だった。




いやあ当日記でも何度か引用してきたイタリアによるエチオピア戦争において、国際連盟でハイチ代表が語ったというエピソードを思い出さずにはいられませんよね。

「われわれは誰かにエチオピアにされるかもしれないという事を決して忘れないようにしなければならない」*1


今のコロナワクチン争奪戦と公平分配を目指したWHOの顛末を見て換言するならば、

「われわれもいつか誰かにワクチンを後回しにされるかもしれない、という事を決して忘れないようにしなければならない」

辺りでしょうか。


コロナワクチン争奪戦争は、かつてのエチオピア戦争が招いたように、再び国連の無力さを露呈するイベントとなってしまうのだろうか?
今ふたたび、国際機関や枠組みが肝心な時に無力であることを見せつけられている私たち。


みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:国際紛争の解決において大国の利害に左右された国際連盟の無力さが露呈した戦争でもある。国際連盟規約第16条(経済制裁)の発動が唯一行われた事例だが[1]、イタリアに対して実効的ではなかった。イタリアは孤立からドイツおよび日本と結ぶようになり、枢軸国を形成する道をたどることになる。第二次エチオピア戦争 - Wikipedia