金の問題な人達と、金の問題じゃない人達

ニセモノだった西欧的な十字軍ではなくて、イスラムでの真の意味での聖戦のお話。


大間違いのタリバン買収作戦 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
これは中々面白い。

 1月28日、アフガニスタン支援を話し合う国際会議がロンドンで開催された。70近い国の代表が集まったこの会議で、ハミド・カルザイ大統領はすべてのアフガニスタン国民、「特にアルカイダなどのテロ組織に属さない」勢力に「平和と和解」を訴えた。
 自分たちは戦況で優位に立っていると考えるイスラム原理主義組織タリバンが、なぜこの提案に応じると思うのか──カルザイはその理由には触れなかった。
 他の国の代表からは、もっと現実的な(と本人たちは思っている)解決策が提案された。例えばタリバン兵に金を払って組織から離脱させるという案。報道によれば、会議の参加国はこの作戦のために約5億ドルの拠出を約束したという。

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なんだろうなぁこの空回り感。


以前の帝国主義の話でもちょっと書いたけど、いわゆるヨーロッパの人達って良くも悪くも便宜主義的だと思うんですよね。だから買収っていう目先の直接的な利益があれば、買収もできると信じてしまう。良かった点で言えば宗教の束縛からの早期の離脱だったり、悪かった点は帝国主義の発露とか(そして割に合わなくなったからやめた)。しかしだからこそ、彼らの世界では「買収」という手段が有効に機能する。
だけどイスラムの、特にタリバンの人達はそうじゃないと思うんです。他の何の為かって、そりゃ神様の為でしょう。
神の為に戦うし、神の為に教えを守るし、そして神の為に死ぬ。まぁ日本だとキ印扱いされてもおかしくないんだけど、だけど彼らは違う。彼らは神の御技を行っている。つまり聖戦だと。利潤とか損得勘定の為じゃない、神の敵と戦っていると。


まぁそんな風に考えている人達に買収しようとした所で、無駄なのは当たり前ですよね。なんていうかもう根本的な価値観が違う。その意味で確かに彼らは聖戦をしている。ヨーロッパの人達の理解の外で。

 さらにタリバンは、買収という考え方自体を侮辱と受け止める傾向がある。戦士の1人は憤慨した口調でユサフザイにこう言った。「私の思想と信仰を金で買うことはできない。バカにするな」

http://newsweekjapan.jp/stories/world/2010/03/post-1051.php?page=1

故にこんな事も言われちゃうと。
そこで考えるのは、ヨーロッパの人達は特に近代以降(ウェストファリア条約以降)、それを進化と呼ぶべきか退化と呼ぶべきかともかく、彼らはそんな物よりももっと現世利益的なあるいは直接的な権力を望むようになったという点。神の為なんかよりももっと大切な「利益」なんだと。
勿論、そんな「神」の問題がヨーロッパの彼らにとって全く完全に考慮に値しなくなった、という事はない。しかしそれが彼らの損得勘定を誤らせる程のウェイトを占める事はあんまりなくなった。そうして彼らは究極的には、儲からなくなったからという理由で、帝国主義を捨て植民地も最終的に放棄したし、あるいは領土をあっさり売却したりもした。(勿論、反対に地政学上重要な地点は必死に守ろうとしたりもした)
更に昔の十字軍の頃からそんな事してましたよね。聖地奪回とか言いながら実はメインが略奪ツアー。で、金が無くなったからやめちゃう。そっくりですね。


しかしイスラムの一部の人にとってはそうではなかった。敵に妥協することは、神の敵と妥協する事だから。そんな彼らに買収なんて手段は通用しない。
んじゃどうすればいいのかって言われると困りますが。たとえば、エマニュエル・トッド*1が『文明の接近』で、「全体の識字率の向上が結果的に宗教的な過激運動から卒業させる」的な話を言っていたので、タリバンのような過激派から卒業できるように地道に教育問題を気長にがんばってくださいオチとか。だめそう。